| 執筆者 | 堀江 哲史(日本大学)/乾 友彦(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | サプライチェーンマネジメントと生産性 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「サプライチェーンマネジメントと生産性」プロジェクト
研究の背景と目的
学校での学習やその後の社会生活には、知識や理解に関わる力だけでなく、他者と関わる力、自分の行動を調整する力、困難から立ち直る力も関係する。これらの力は、ある時点で突然決まるものではない。それまでに身に付いた力を土台として、家庭からの働きかけや学習環境と組み合わさりながら形成されていく。子どもの能力形成を考える上では、幼少期にどのような力を身に付けるかだけでなく、それが就学後の能力形成にどのようにつながるかが重要である。また、家庭からの働きかけの役割も、子どもの発達段階や、それまでに形成されたスキルによって異なる可能性がある。
本研究では、日本の子どもを出生後から追跡したデータを用いて、認知スキル、非認知スキルおよび家庭投資が、就学前から就学後にかけてどのように次の時期へつながるかを分析した。さらに、COVID-19流行前までに形成されたスキルと、COVID-19流行期の学校生活・学習経験との関係を検証した。
使用データと分析方法
分析には、厚生労働省および文部科学省による「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」の個票データを用いている。この調査は、全国の2001年1月および7月に生まれた人を出生後から継続的に追跡している。本研究の分析対象は、第1回から第22回まで継続して観測された16,937人である。乳幼児期からCOVID-19流行直前までを6つの期間にまとめ、最初の2期間を就学前、後の4期間を就学後とした。その上で、多数の質問への回答に共通する傾向を取り出し、認知スキル因子、非認知スキル因子、家庭投資因子という3つの指標を推定している。
21世紀出生児縦断調査には、学力検査による得点は含まれていない。本研究の認知スキル因子は、乳幼児期の言語発達や自立行動と、学齢期の主観的成績、得意科目、授業内容の理解度などに共通する成分を捉えている。従って、試験で測定される学力などを中心とする狭義の認知能力よりも広い概念である。非認知スキル因子は、社会性、自己調整、情緒の安定、レジリエンスなどに共通する成分である。家庭投資因子は、子育て費用、読書環境、父母の育児関与などに共通する成分である。表2に、各因子の推定に用いた観測指標を示す。
これら3つの因子について、ある時期のスキルや家庭投資が、次の時期のスキルとどのように結び付いているかを推定した。これにより、個々の質問項目を別々に追うのではなく、複数の観測指標に共通する因子について、乳幼児期から青年期までの関係を捉えている。
主な結果
主な結果は3点にまとめられる。第一に、就学前には、認知スキル因子が次の時期にも持続する関係がみられた。また、認知スキル因子と家庭投資因子は補完しあって、次の時期の非認知スキル因子と結び付いていた。幼い時期の学習・発達の基礎と家庭からの働きかけが、社会性や自己調整などの形成にも関係する可能性を示す結果である。
第二に、就学後には、非認知スキル因子が次の時期にも持続する関係が強くなった。さらに、非認知スキル因子と家庭投資因子が補完しあいながら、その後の認知スキル因子と非認知スキル因子の双方の形成に結び付いていた。就学前に形成された非認知スキル因子が就学後にも持続し、その後の認知スキル形成にもつながる経路が考えられる。このように、すでに身に付いているスキルの水準が高いほど、家庭投資と次の時期のスキル形成との結び付きが強くなる性質を、動学的補完性と呼ぶ。本研究の結果は、この関係が就学前と就学後で異なる形を取ることを示している。
第三に、COVID-19流行期について、流行前までに形成されたスキルと、その後の学校生活・学習経験との関係を分析した。21世紀出生児縦断調査では、2021年の調査においてCOVID-19による影響の有無を尋ねている。これに対し、2022年の調査ではCOVID-19流行前からの改善を、2023年の調査では緊急事態措置およびまん延防止等重点措置が実施されていた期間からの改善を尋ねている。分析の結果、2022年と2023年では、認知スキル因子が高い学生ほど、学校生活の満足度や授業内容の理解度が「向上した」と回答しにくく、非認知スキル因子が高い学生ほど「向上した」と回答しやすい傾向がみられた。この方向は、性別と出生コーホートの組合せを変えても共通していた。ただし、この結果だけから、認知スキル因子が高い学生の状態が悪化したとはいえない。比較時点の満足度や理解度が比較的良好で、改善する余地が小さかった場合にも、向上したと回答しにくいという同じ傾向が生じ得るからである。本研究での分析からは、改善する余地が小さかった場合と、実際に状態が悪化した場合とを区別できないことに留意されたい。
政策的含意と留意点
第一に、子どもの能力形成に関する支援を検討する際には、就学前と就学後を切り離さず、一続きの過程として捉える視点が重要である。早い時期の支援だけで完結させるのではなく、発達段階に応じて内容を変えながら、その継続性を考慮することが示唆される。
第二に、非認知スキルを認知スキルと切り離して捉えない視点が重要である。本研究では、就学前に形成された非認知スキル因子が就学後にも持続し、その後の認知スキル形成にもつながる可能性が示された。この結果は、学習面と社会情緒面への取組を、相互に関連するものとして捉える考え方と整合的である。
本研究は、出生後から継続して蓄積された情報を用いて、スキル形成と家庭投資、その後の学校生活・学習経験との関連を明らかにした。こうした関係の背後にある因果的な仕組みを明らかにすることが、今後の課題である。