| 執筆者 | 宇南山 卓(ファカルティフェロー)/高橋 悠太(大阪大学)/高山 直樹(一橋大学) |
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| 研究プロジェクト | 経済の非対称性と日本経済の課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「経済の非対称性と日本経済の課題」プロジェクト
多くの先進国では、家族の規模が縮小したにもかかわらず親が子供にかける時間と費用が増えており、「徹底的な子育て(intensive parenting)」と呼ばれている。日本の完結出生率は、1951-55年生まれの1.98から1971-75年生まれの1.40へ低下した。この2つの世代間で親が子供に投じる経済資源はどのように変化したのか、それがこの論文の問いである。米国や韓国などでは、徹底的な子育てが広まった要因として、大学入試をめぐる競争の過熱、教育の収益率の上昇、学費の急激な上昇などが挙げられている。これらは子供一人あたりの資源投入を増やすと同時に、子供の数を減らす方向にも働く。日本で同じことが起きたのかを知ることは、少子化の原因を絞り込むうえで重要である。
本論文は、総務省統計局の公表する社会生活基本調査と家計調査の調査票情報から、女性の生年を5年刻みに区切った擬似パネルを作り、育児時間は21-55歳、育児費用は21-60歳の生涯合計として推計する。さらに国勢調査から測った生涯無子率と完結出生率で分母を絞り込み、「母親一人あたり」と「子供一人あたり」を区別して測る。子供の数が減っていれば、投入の総額が同じでも一人あたりの投資は増えているからである。
母親一人あたりの生涯育児時間は約1.08年から約1.54年へ増え、規模の経済を調整した子供一人あたりでは約0.74年から約1.12年へ約1.5倍になった。増えた時間は、余暇や睡眠ではなく家事の短縮(1日あたり約41分減)から捻出されている。育児費用も、母親一人あたりは約1,550万円から約1,530万円とほぼ不変である一方、子供一人あたりは約699万円から約772万円へ約1.11倍に増えた。子供数の減少と一人あたり投資の増加が並行して起きており、子供の量と質のトレードオフという標準的な枠組みと整合的である。この意味で、日本でも徹底的な子育ては広がった。
しかし、その中身は米国や韓国などについて論じられてきた姿とは異なる。図1・図2は、時間と費用を子供の年齢階級へ分解したものである。育児時間の山は0-5歳、費用の山は19-22歳と正反対だが、世代間で増えたのは、どちらも幼い年齢であった。時間の増加分は69%が0-5歳、23%が6-9歳に向かい、大学入試に近い16-18歳では増えていない。増加率に母親の学歴による差もない。費用も0-5歳の増加が+46万円(増加分の59%)と最も大きい。小学校期・中学期にも増えたが、大学入試に近い16-18歳と大学期には有意な差がない。受験準備そのものにあたる補習教育への支出は約3割増えたが、その大半は相対価格の上昇によるもので、購入した量の増加は約1割、しかも大学受験期に集中していない。
増えた費用の中心は保育所に払う費用と大学授業料であった。大学期には仕送りの減少があり授業料の上昇を相殺し、純増としては保育所に払う費用が残る。未就学期の増加は、保育料が上がったからではなく、0-3歳の子供を持って働く母親のうち保育料を払う割合が49%から71%へ上がったことによる。祖母などが担っていた家庭内の保育が、費用のかかる保育所へ置き換わったのである。大学期では、進学率が39%から55%へ上がり、親の負担する授業料は子供一人あたり40万円増えた。ただしこれは進学者の増加によるもので、二つの世代が授業料を払った時期の大学学費の相対価格は、私立で1.03倍、国立で1.00倍とほとんど変わらない。加えて、自宅から通う進学者が増えたうえ、仕送りの月額自体も下がったため、平均的な仕送り(授業料以外)は42万円減り、大学期全体では合計がほとんど動かなかった。
こうしたことから、日本における徹底的な子育ての広がりを、大学入学競争の激化による子育て負担の増加として説明することは難しい。子供数の減少と子供一人あたり投資の増加が並行したという点では、量と質のトレードオフという標準的な枠組みと整合的である。しかしその中身は、米国や韓国などで論じられてきた大学入学競争への対応ではなく、働く母親の保育が家庭から保育所へ移ったことと、大学へ進む子供の割合が上がったことであった。育児への資源投入と少子化がどのような要因でもたらされ、少子化とどのように関連するかを示すのは、今後の課題である。