| 執筆者 | 大野 太郎(信州大学) |
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| 研究プロジェクト | 経済の非対称性と日本経済の課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「経済の非対称性と日本経済の課題」プロジェクト
家計の厚生は所得水準のみならず所得変動からも影響を受け、所得変動が高まると消費など生活水準の低下や貧困リスクの上昇につながりやすい。こうした所得変動の特徴を理解するにあたっては、家計の所得変動がどの所得源泉(内訳)から生じるのか、を把握することが求められる。また、家計は出産や入院、家族の介護など様々な出来事に直面する可能性があり、これらの出来事は就業状態にも影響を与える。そのため、家計の所得変動がどのような出来事から影響を受けるのか、を把握することも重要である。そこで、本稿では慶應義塾大学『日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)』の個票データを使用し、所得源泉別の要因分解を通じて家計の所得変動がどのような所得(勤労所得、資産所得など)から生じるのかを考察した。また、イベント・スタディ分析の手法を通じて、特に家族の介護がどのくらいの所得変化をもたらし、それがどれくらい持続的な影響を持つのかについて考察した。
はじめに、どのような属性の世帯で所得変動が生じているのかについて確認したところ、所得変動のうち、所得増加を経験する場面と所得減少を経験する場面はおよそ同程度(半分ずつ)であるが、いくつかの状況は主に所得減少につながっている。例えば、育児や介護による休業や離職に直面した際に家計は所得を減らしており、就業状況の変化が家計の所得に影響している。また、入院や出産といった出来事があった際に家計は所得を減らしていることも確認された。
次に、家計の所得変動はどのような所得源泉から生じているのかについて考察したところ、離職の場合は夫の勤労所得が大きな寄与を持っており、夫の離職は所得減少という形で大きな変動要因となっている。入院や家族の介護が生じた場面でも夫の勤労所得が大きな寄与を持つといった同様の結果を得ており、入院や家族の介護も一つのきっかけになっていることを示唆する。また、休業の場合は夫の勤労所得とともに妻の勤労所得が大きな寄与を持っており、夫のみならず妻の休業が所得減少という形で大きな変動要因となっている。出産が生じた場面でも夫と妻の勤労所得が大きな寄与を持つといった同様の結果を得ており、休業では出産が一つのきっかけになっていることを示唆する。
さらに、イベント・スタディ分析の手法を使って、特に家族の介護といった出来事が所得に与える影響やその持続性について考察した。図1は家族の介護が所得に与える影響について、推計の結果を示している。横軸は時点(1年おき)を表している。例えば、家族の介護が生じるというイベント発生時を0期とし、その1年後を1期、2年後を2期として4年後まで扱う。また、イベント発生の2年前を-2期、3年前を-3期として4年前まで扱う。(ここではイベント発生の1年前を基準としているため、横軸では-1期は記載していない。)縦軸は所得の対数値を表しており、例えば値が0.05をとるときは所得が(イベント発生の1年前に比べて)5%増加したことを意味する。図1の結果から、家族の介護が生じると家計の所得は7%程度減少し、その影響は少なくとも4年以上の長期間にわたることが確認された。こうした結果をさらに世帯属性の違いも考慮して考察したところ、年齢の面では主に60歳以上で所得減少が起きている。このことは家族の介護が生じるとき、定年を迎える時期が近くなるほど、離職を含む就業状態の変更を選んでいる可能性を示唆する。また、就業状態の件では休業よりも離職を伴うときに所得減少が起きている。このように、家族の介護が生じるとき、特に離職を伴う際に家計の所得は減少し、またその影響は長期間に及ぶことが確認された。
家族の介護・看護が必要になるとき、それが就業に与える影響は多様である。例えば介護する者が就業を継続するか、休業するか、離職するかのうち、どれを選択するかによって家計所得への影響も異なる。特に離職の場合は所得への影響は比較的大きく、就業の復帰も容易でないため、就業環境や政策による対応が求められる。こうした中、2025年4月に育児・介護休業法が改正され、介護のためのテレワーク導入(努力義務)など介護面の雇用環境整備も進められつつあるが、介護離職防止に向けた雇用環境整備の重要性はますます高まっており、一層の取り組みが求められる。