| 執筆者 | 石井 晋(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 1990年代後半から2010年代までの日本の半導体産業に関わる政策史 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「1990年代後半から2010年代までの日本の半導体産業に関わる政策史」プロジェクト
1990年代後半以降の日本の半導体産業
1990年代後半以降、2010年代末までの間、日本国内で製造されるICチップの世界シェアが大きく低下し、特に28nm以下の先端ロジックの量産投資が途絶えた。また、ファウンドリー・ファブレス・IDMのいずれにおいても、日本企業が世界市場で高いシェアを持つ例が少なくなった。日本は、半導体材料・半導体製造装置では一定の強みを維持したものの、高集積化が進むICチップの設計・製造プロセス・露光装置など、半導体産業の中核領域の先端技術開発では限定的な貢献にとどまった。
経済産業省および先行研究の認識
こうした経過をたどった要因について、経済産業省(METI)は2021年「半導体戦略」で五つの要因を挙げた。日米半導体協定の影響、水平分離への対応の遅れ、国内デジタル市場の弱さ、自前主義による国際連携不足、そして韓国・台湾・中国の国家的支援との対比である。多くの先行研究では、半導体事業を有する企業の経営のあり方に課題があったことを強調しており、日本の半導体産業は「DRAM中心の経営体質がロジックICに適応できなかった」「ロジック転換後も有力顧客を獲得できず市場地位を築けなかった」という二つの見解に収斂する傾向がある。
日本の産業界と政策の対応
それ以上に重視されるべきなのは、企業経営だけでは説明できない要因である。1990年代後半〜2000年代初め、日本の半導体業界は危機感を共有し、企業再編や共同研究開発体制の構築を進め、通商産業省(MITI)/経済産業省(METI)も支援した。それにもかかわらず懸念は現実化し、各企業は半導体事業の縮小や撤退を選択した。ただし、これは、日本の市場環境や比較優位の変化に適応した結果であり、むしろ合理的な経営判断だった可能性が高い。
世界の動向と共同研究開発体制の構築
特に強調すべきであるのは、世界の半導体産業が1990年代後半以降、微細化の技術的障壁に直面し、産業組織の再編と国際的な共同研究体制の構築を迫られたという歴史的文脈である。欧米では、科学と産業技術を結びつける協力体制が早期に整備され、国際的な研究開発センターへと発展した。非競争領域が的確に画定され、企業間・国際間の協力が進み、装置・材料メーカーや公的研究機関を巻き込んだ大規模な研究開発体制が形成された。
日本においても、1990年代半ば以降、ICチップ・メーカーが結集した半導体産業研究所(SIRIJ)を中心に同様の試みが行われ、半導体先端テクノロジーズ(Selete)など一時は精力的に活動した。また、機械振興協会は、半導体産業に対する幅広い調査と深い理解に基づいて、有望な提言や報告書を繰り返し発表した。しかし、欧米ほど実効的な共同研究開発体制には発展せず、先端技術・人材・知的財産の再生産が困難になった。これが日本企業の世界の半導体産業発展への貢献度を低下させた最大の要因である。
日本の市場環境の課題
加えて、日本国内の市場環境が、寡占化する世界のICチップ市場で自立的に競争できる企業の成長を阻む系列的な構造を持ち、ICチップ・メーカーが従属的立場に置かれやすかった点も重要である。MITI/METIは共同研究体制の構築や共通デザイン・ルールに基づく独立・専業ファウンドリー設立に向けた産業再編を支援したが、十分な成果には結びつかなかった。
半導体産業政策の意義
「市場原理の尊重」というMETIの基本方針が不適切であったわけではなく、半導体メーカーの設備投資等に公的資金を補助金として投じるような産業政策が適切となる状況は限られている。しかし、世界のICチップ市場に見られる寡占企業の独占的パワーの強化にともなう弊害の軽減や日本で歴史的に醸成されてきた半導体研究開発リソースを有効に活用するという点で、半導体産業政策には一定の意義があり得た。推奨されるべき半導体産業政策は、日本国内の有力ICチップ・メーカー間において、非競争領域を的確に画定することを促すとともに、欧米や東アジアなど世界の半導体研究開発リソースを惹きつけるような共同研究開発拠点を長期にわたって継続的に育成・発展させていくことであった。そのためには、政策を担当する部課内において、半導体産業に対する情報収集に継続的に取り組み、産業の特質、世界の動向、将来の展望についての深い理解を蓄積することが必須であった。