| 執筆者 | 宇南山 卓(ファカルティフェロー)/高橋 悠太(大阪大学)/高山 直樹(一橋大学) |
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| 研究プロジェクト | 経済の非対称性と日本経済の課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「経済の非対称性と日本経済の課題」プロジェクト
日本では長期にわたって少子化が進み、その背景として、女性の高学歴化や就業拡大、未婚化などが指摘されてきた。本論文では、1980年から2020年までの複数時点の国勢調査を接続し、個票に記録された同居する子供の情報を累積することで、女性の完結出生児数を推計する新たな手法を提示する。この計測から、二つの重要な事実が明らかになった。第一に、完結出生率はすべての学歴でほぼ同じ時期に同程度低下しており、女性の高学歴化に伴う学歴構成の変化は、その低下の約5%しか説明しないことである。第二に、完結出生率の低下には、有子女性の平均完結出生児数の減少、生涯未婚率の上昇、既婚生涯無子率の上昇が、それぞれ約3分の1ずつ寄与していることである。以下では、この事実を詳しく説明し、日本の少子化を理解するうえでの含意を考える。
高学歴化は完結出生率の低下をほとんど説明しない
図1は、推計された完結出生児数分布から計算した完結出生率の推移を示している。完結出生率が1955年生まれから1970年生まれにかけて大きく低下し、その後の世代では下げ止まっている。既存のデータでも明らかになっていたが、本論文では、完結出生率が1955年生まれから低下していること、1970年生まれ以降は水準を維持していることを精緻に示せている。この結果から、日本の少子化は特定の生年コーホートで生じた完結出生率の水準低下として捉えるべきであり、1970年生まれが出生の大部分を終えた2000年代初頭以降、その低下は止まっていると考えられる。
さらに、本論文の計測手法には、完結出生率の推移を学歴別に明らかにできるという利点がある。学歴別の推移をみると、完結出生率の低下は学歴によらずほぼ同じ時期に生じ、その低下幅も学歴間で大きく異ならない。完結出生率の水準自体は高学歴層ほど低いものの、その変化幅には大きな学歴差が見られない。この事実は、急速な高学歴化が進んだ時期であったにもかかわらず、高学歴化そのものは完結出生率の低下をほとんど説明しないことを示している。実際、女性の高学歴化に伴う学歴構成の変化が、1955年生まれから1970年生まれにかけての完結出生率の低下にどれほど寄与したかを計算すると、その割合は約5%にとどまる。
この結果は、日本の少子化の背景に、学歴によらず出生を抑制する共通のメカニズムが存在する可能性を示唆している。たとえば、Goldin(2025)(https://www.nber.org/papers/w34268) のように、高学歴女性が直面するキャリアと出産のトレードオフを中心に少子化を説明する議論だけでは、日本における完結出生率の低下の大部分を説明できない。こうした説明に基づいて高学歴女性の仕事と出産の両立に焦点を当てる政策は、それ自体に意義があるとしても、日本全体の完結出生率を引き上げる効果は限定的である可能性がある。
少子化は未婚化だけでは説明できない
日本の少子化は、結婚しない人の増加、すなわち未婚化によって引き起こされたとしばしば説明されてきた。この見方の背景には、日本では婚外出生が極めて少ないことに加え、これまで利用されてきたデータでは、結婚したものの生涯子供を持たなかった女性を正確に把握することが難しかったという事情がある。本論文の手法では、婚姻状態にかかわらず生涯無子の女性が把握可能となった。そこから、ほぼ全てが無子である未婚者の除くことで、既婚生涯無子者の割合も計算できる。その分解を使い、完結出生率の低下を、有子女性の平均完結出生児数の減少、生涯未婚率の上昇、既婚生涯無子率の上昇という3つの要因に分解することができる。
1955年生まれから1970年生まれまでの完結出生率の低下をこの3つの要因に分解すると、その寄与はそれぞれ約3分の1となった。すなわち、完結出生率の低下は、「結婚しないこと」「結婚しても子供を持たないこと」「子供を持っても人数を減らすこと」という3つの変化が同程度に積み重なった結果である。未婚化だけに注目すると、完結出生率の低下の約3分の2を見落とすことになる。
この基本的な構造は、学歴別にみてもおおむね共通している。高校卒、短大卒、大学卒では、3つの要因がいずれも完結出生率低下の約3割を説明しており、突出した単一の要因は存在しない。例外は中学卒であり、生涯未婚率の上昇が低下の約半分を説明する一方、既婚生涯無子率の上昇による寄与は約1割にとどまる。ただし、1970年生まれの女性に占める中学卒の割合は約4%にすぎないため、この例外が全体の分解結果に与える影響は小さい。また、大学卒では既婚生涯無子率の上昇による寄与が比較的大きく、1965年生まれから1970年生まれにかけては、3つの要因のうち完結出生率を最も大きく押し下げている。
これらの結果は、日本の少子化には、結婚、第一子の出産、その後の追加出生という各段階で生じた変化が複合的に関わっている可能性を示唆している。そのため、特定の段階だけに対象を絞る政策よりも、結婚や世帯形成の支援、結婚後に子供を持つことを妨げる経済的・社会的制約への対応、子供を持つ女性が希望する人数の子供を持てる環境の整備を組み合わせた包括的な支援の方が、有効である可能性がある。ただし、本論文の分析は各要因の寄与を記述したものであり、その背後にある因果関係や具体的な政策の効果を明らかにするものではない。
おわりに
本論文の意義は、日本の少子化を説明する単一の要因や有効な政策を特定したことではなく、これまで十分に観察できなかった完結出生率の変化を、生年・学歴・婚姻状態別に精度よく捉える実証的な基盤を提示したことにある。分析からは、完結出生率の低下が学歴を問わず生じ、未婚化だけでなく、既婚生涯無子の増加と有子女性の子供数の減少も同程度に寄与していたことが明らかになった。今後は、こうした学歴間の共通性と複数の経路の背後にあるメカニズムを解明し、どのような政策が有効かを検証する必要がある。