ノンテクニカルサマリー

子どもの医療費無償化のスピルアップ効果

執筆者 佐藤 大晃(慶應義塾大学)/中室 牧子(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「機能するEBPMの実現に向けた総合的研究」プロジェクト

1.研究の目的

本研究の目的は、子どもの医療費無償化の導入の「スピルアップ効果」(spill-up effects)の存在を実証的に検証することである。スピルアップ効果とは、ある経済主体への介入・改善が、直接の受益者ではない他の経済主体にまで好影響を及ぼす波及効果のことで、特に子どもから親、生徒から教員、部下から管理職のように上位の経済主体への波及効果を強調する際に用いられる。「子どもの医療費無償化」については、子どもの健康改善・増進につながらないこと等が示されてきたが、その一方で、本研究では、「子どもの医療費無償化」が親のストレスや心理的負担の軽減につながる可能性を実証的に検討するものである。

2.推定結果

差分の差分法(DID)を用いて検証したところ、「子どもの医療費無償化」の導入により、親のストレスや心理的負担(K6)は0.60ポイントの低下が示された。しかし、クラスター数の少なさを考慮したWild Cluster Bootstrap法による検定では、全体における平均処置効果に統計的に有意な結果は得られなかった。一方で、親の所得層による異質性を考慮して分析した結果、高所得層においては一貫して親のストレスや心理的負担を改善する効果が確認され、この結果は二重に頑健なDID推定量(DRDID)においても頑健であった。これらから、「子どもの医療費無償化」によって子どもの受診に伴う医療費等の自己負担がゼロになったことが、予期せぬ家計支出のリスクを軽減し、親の経済的および心理的な負担感を軽減させるメカニズムとして働いたと推察される。

表1. DIDによる推定結果
表1. DIDによる推定結果
(備考) *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1。括弧内はクラスター標準誤差を⽰す。
コントロール変数は、雇⽤形態、学歴、⼀⼈っ⼦、⻑⼦、等価世帯可処分所得、学年、三世代世帯ダミー、ひとり親ダミー、⼦どもの性別、財政⼒指数。

3.親の関わりに与える影響

「子どもの医療費無償化」及び「学校給食費無償化」により、親のストレスや心理的負担(K6)が相対的に改善することが示されたが、この改善が親の子どもへの関わり方にどのような影響を与えるかを検証するために、因果媒介分析により、親のストレスや心理的負担(K6)を媒介として、家庭内での子どもへの関与と学校や地域活動への関与に与える効果を推定した。

「子どもの医療費無償化」は、学校や地域活動への関与には影響を与えていないが、家庭内での子どもへの関与に、総合効果で0.195、直接効果で0.180という統計的有意な効果がみられている。総合効果から直接効果を差し引いた媒介効果0.015は総合効果のうち、約7.7%が「子どもの医療費無償化」を通じた効果と解釈される。これは、予期せぬ家計支出に対する経済的な不安による心理的負担が軽減され、それが親の精神的な安心感につながるというメカニズムが考えられる。

表2. 「子どもの医療費無償化」が親の関わり方に与える影響
表2. 「子どもの医療費無償化」が親の関わり方に与える影響
(備考) *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1。括弧内はクラスター標準誤差を⽰す。
コントロール変数は、雇⽤形態、学歴、⼀⼈っ⼦、⻑⼦、等価世帯可処分所得、学年、三世代世帯ダミー、ひとり親ダミー、⼦どもの性別、財政⼒指数。

4.政策的示唆

子ども向け現物給付政策の評価においては、子ども本人への直接効果だけでなく、親へのスピルアップ効果も含めた評価が必要。また、政策によってスピルアップ効果の大きさや作用経路が異なり、各政策目的に応じて、スピルアップ効果等を勘案した政策評価が求められる。