| 執筆者 | 加藤 大貴(大阪大学)/中山 一世(大阪大学)/佐々木 周作(大阪大学)/大竹 文雄(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「機能するEBPMの実現に向けた総合的研究」プロジェクト
1. 研究の目的と背景
日本では2013年と2018年に風しんが流行し、感染した妊娠初期の女性から、目や耳に障害を伴う先天性風疹症候群(CRS)の子どもが生まれる事例が報告された。この流行の一因は、44〜62歳男性(2023年時点)の風しん抗体保有率が他の世代に比べて低いという制度的な経緯にある。集団免疫の達成(抗体保有率90%以上)に向け、政府は2019年4月から2025年3月まで、44〜62歳男性(2023年時点)を対象に無料の抗体検査・ワクチン接種事業を実施したが、2023年3月時点の抗体検査受検率は全国で約28%に留まっており、受検率の伸び悩みが課題となっていた。
我々は事業の初年度から厚生労働省と協力し、広報資材の作成・配信等を通じて受検率向上に取り組んできた[1]。しかしながら、受検率の伸びは鈍化しており、行動変容を起こしやすい層は既に動いた後で、反応しにくい層しか対象として残っていない可能性がある。すなわち、本人に直接働きかける従来型のアプローチだけでは、効果の限界に近づいている可能性が示唆される。そこで本研究は、公共政策における「介入を誰に届けるか」というターゲティングの観点から、本人ではなく配偶者など家庭内の他のメンバーに介入を届ける方が有効ではないかという仮説を、風しん対策の鉄道広告キャンペーンを用いて検証した。
2. 研究手法
2023年11月、首都圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)を走る一部の鉄道(JR東日本の路線)の車内デジタルサイネージで、風しん対策の広報動画が放映された。首都圏の鉄道網は世界最大級であり、利用者ごとに普段利用する通勤経路が異なる。本研究は、この経路の違いを利用して、(1)接種対象者本人が、(2)その配偶者が、それぞれ通勤時にこの広告放映路線を利用しているかどうかによって、夫の抗体検査受検率がどのように変化するかを比較した。
データは、南関東地方の2023年時点で44~62歳男性(定期接種対象世代)約1万人を対象としたオンライン調査から得た。キャンペーン前のスクリーニング調査(2023年9月)で通勤経路を確認し、本人のキャンペーン路線利用を判定した。分析対象は、スクリーニング調査時点で抗体検査を受検しておらず、通勤時に電車を利用している人に限定した。キャンペーン1か月後の本調査(2023年12月、N=9,580)では短期の抗体検査・ワクチン接種・広告視聴を確認し、本調査から約1年後の最終追跡調査(2025年1月)では、配偶者の路線利用(事後的な想起に基づく回答)と1年間の累積的な予防行動を確認した。配偶者の路線利用には想起バイアスの懸念があるため、本人の路線利用や居住地・勤務地等で調整して分析した。配偶者経由の効果の分析には、本調査時点で既婚かつ両調査に回答した3,685人のデータを用いた。
3. 主な結果
第一に、接種対象者本人が広告放映路線を利用していても、本人の抗体検査受検率に統計的に有意な変化は見られなかった。第二に、配偶者が広告放映路線を利用していた場合には、夫の抗体検査受検率が、キャンペーン実施から1か月間で1.4%ポイント、1年間では4.5%ポイント、統計的に有意に上昇した。長期の効果は短期の効果の約3倍であり、効果が時間を経ても持続していたことを示している。観察可能な属性を調整しても、この結果は変化しなかった。
この対比は、本人が単に広告を見る機会が少なかったから、ということでは説明できない。本人が広告放映路線を利用すると、本人自身の広告視聴率も高まっていたが、操作変数法を用いて広告視聴自体の効果を取り出すと、視聴は抗体検査の受検につながっていなかった。すなわち、鉄道広告は本人を直接動かす力としては限定的であったが、配偶者がその広告を見て本人に働きかける(説得する)きっかけとして機能したと考えられる。
4. 政策的インプリケーション
本研究は、公衆衛生分野の情報提供・広告施策のターゲティングを考える際、本人だけでなく配偶者・家族に情報を届けることが、本人の行動変容を促す有効な手段となりうることを示している。とりわけ、本人への直接的な働きかけの効果が薄れてきた局面、すなわち、反応しやすい層がすでに行動を変え、反応しにくい層しか残っていない局面では、家族を対象に加えることが追加的な政策効果をもたらす可能性がある。この知見は風しん対策に限らず、配偶者・家族の方が将来世代への配慮や説得力を持ちやすい他の公衆衛生分野(禁煙・生活習慣病対策等)や教育・金融分野にも応用できる可能性がある。ただし有効に機能するには、(1)目指す行動変容の方向性が本人の動機よりも配偶者・家族の動機と一致していること、(2)配偶者・家族による説得が本人の行動に伴うコストを十分に下げられること、という2条件が必要になると考えられる。
- 参照文献
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- [1] Kato, Hiroki, Shusaku Sasaki, and Fumio Ohtake. 2024. "Adding Nudge-Based Reminders to Financial Incentives for Promoting Antibody Testing and Vaccination to Prevent the Spread of Rubella." Journal of Behavioral and Experimental Economics 113 (December): 102300. https://doi.org/10.1016/j.socec.2024.102300.