| 執筆者 | 川本 真哉(立教大学) |
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| 研究プロジェクト | 企業統治分析のフロンティア |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト
分析の目的
会社法制定(2006年)やその改正(2014年)もあり、2000年代初頭から日本でもキャッシュアウト(少数株主への現金交付によるスクイーズアウト)を用いた株式非公開化が見られるようになってきた。筆者の集計によると、2024年末までに650件もの企業がキャッシュアウトよって市場から退出している(図1)。本稿では、こうした現状を踏まえ、キャッシュアウトによる非公開化の動機について検証を行った。
キャッシュアウト利用の状況
まず、キャッシュアウト・スキームの利用状況について概観してみよう。2014年の会社法改正により株式等売渡請求制度が導入されたことは、機動的なキャッシュアウトを可能にし、上場廃止までの期間短縮化(148~157日⇒87日)に寄与したことがわかる(表1)。また、どのようなスキームを採用するかは買収主体の特性に依存しており、株式の事前保有比率(Toehold)が高い親会社による完全子会社化案件では株式等売渡請求制度が、その他MBO案件では株式併合の手法がキャッシュアウトに用いられていることも明らかにされた。
キャッシュアウトの動機
次いで、キャッシュアウトの動機を検証したところ、TOB公表前の株価パフォーマンスが低いほどキャッシュアウトによって非公開化を実施するということがわかった。アンダーバリュエーションの解消が非公開化の動機として指摘できる。あわせて、外国人投資家の持分が高いほど、非公開化を実施する傾向にあることも示された。これらの比率が低いほど、株式所有構造が流動的であり、株主のプレッシャーが強い、あるいは敵対的買収が発生する潜在的可能性が高いと推察される。それらリスクを遮断するために非公開化を行ったものとみられる。さらに、外国人持株比率とは逆に、役員持株比率はキャッシュアウトに対し負の影響を与えていることが判明した。バイアウトによって経営陣に所有権を集約化することで、それら支配的株主によって当該企業のモニタリング強度が向上し、バイアウト後の価値創造が期待できる。その効果を享受するためにキャッシュアウトによって市場からの退出を選択したと解釈できる。
キャッシュアウトと株主の富
さらに、キャッシュアウトが株主の富に与える影響について買収プレミアムを取り上げて検証を行った。それによると、スモールキャップで投資家との間に情報の非対称性がある企業、そして、キャッシュリッチな企業ほどプレミアムを支払い市場から退出していることがわかった。また、TOB後の議決権を多く獲得した(あるいは獲得する必要がある)全部取得条項付種類株式が90%以上の案件と、株式等売渡請求が採用できたスキームとで、相対的に高いプレミアムが観察された。これら案件では、高い議決権比率を獲得するために、相応のプレミアムを上乗せする必要があったものとみられる。
政策的インプリケーション
以上の分析から、会社法改正は機動的な株式等売渡請求が利用できた場合、機動的なキャッシュアウトを可能にし、「残存株主を長期間、不安定な立場に置かない」というメリットを実現したと考えられる。かつ、このスキームを使った案件の買収プレミアムが低いという証拠もない(むしろ高い)。この点から、現在経済産業省等で議論されているこの株式等売渡請求の要件緩和(TOBによる9割以上の議決権取得⇒2/3以上へ)は肯定できるものと考えられ(注1)、その効果は、「少数株主を迅速に締め出すことができる」という見かけ上の「強圧性」のイメージを払拭し、そのメリットを市場参加者にアピールできるかにかかっていると言えよう。
- 脚注
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- ^ 経済産業省『「稼ぐ力」の強化に向けた コーポレートガバナンス研究会会社法の改正に関する報告書』2025年1月17日。