このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「日本の人的資本改革」プロジェクト
日本の企業や組織では、働き方改革や人的資本経営が推進されているが、残された課題の一つとして、職場のハラスメントがある。なかでも「パワーハラスメント(パワハラ)」は相談件数の64.2%(令和5年度厚労省委託調査)を占めている。2022年4月に施行された「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)により、全ての事業主がパワハラの防止措置を講じるようになった。各種調査によれば、パワハラと職務上のストレス、業務負担、上司とのコミュニケーション不足との関係等が明らかにされているが、その真因や対策までは踏み込めていない状況にある。
そこで、本研究では、パワハラが起こる原因として「そもそも上司になるような人は、パワハラを起こしやすいという性格特性(ダークトライアド)を持っている」という仮説を提示する。ダークトライアドとは、対人関係に問題を抱えやすい性格特性であり、マキャベリアニズム(他者操作的な特性)、サイコパシー(共感性や良心の呵責の欠如)、ナルシシズム(優越感、虚栄、自己顕示、搾取性)からなる。先行研究によると、マキャベリアニズムの特性を持つ者はリーダーのポジションにつきやすく、ナルシシズムの特性を持つ者は賃金が高い一方、マキャベリアニズムには、上司による虐待的な監督や職場のいじめとの関係が指摘されている。
これらを踏まえて、本研究では、RIETI「全世代調査」を用いて、他の性格特性、個人属性などもコントロールした上で、ダークトライアドの性格特性が賃金や昇進に正の影響を与えるか否かを確認した。なお、この調査では本人のパワハラ(加害または被害)の有無は確認できないため、ダークトライアドとパワハラの直接的な関係を分析したものではない点に留意する必要がある。
図1によると、ダークトライアドのスコアは、女性よりも男性のほうが高く、年齢とともに低減し、教育年数とはほとんど関係がない。年収、役職(部長職まで)とマキャベリアニズム、ナルシシズムは緩やかな正の相関がみられる。
続いて、ダークトライアドと昇進、賃金の関係について、性別、年齢、教育水準、ビッグファイブ(人間のパーソナリティ(性格特性)の5因子:開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症的傾向)をコントロールした上で、回帰分析を行った。雇用者に限定した分析によると、マキャベリアニズムが高い人は、課長級以上、または、より上級の管理職への昇進確率が高かった。しかし、課長級以上に限定して分析したところ、統計的に有意な係数をもつダークトライアド変数はなかった。賃金に関しては、マキャベリアニズムは単独では正で有意、ナルシシズムの係数は単独でもビッグファイブで統制した後でも正で有意だった。四分位回帰の結果、最上位よりも中間から上位の賃金階層の管理職で、ダークトライアドに対するリターンが大きいことがわかった。
管理職に限定して、マキャベリアニズムのスコアの高低で、サンプルを二分した分析を行った。マキャベリアニズムが高い管理職群の職業能力として、働きかけ力、説得力、命令に従うことを是とする考え方のスコアが高く、人手不足で、競争する雰囲気のある職場にいることが確認された。上司のダークな性格特性が職場環境によってさらに増幅されている可能性が示唆される。
これらの結果は、管理職がパワハラ行為を行う可能性を判断するために、管理職への登用の際、性格特性にパワハラ気質がないか確認したり、性格特性からパワハラ行為者となる可能性の高い管理職本人に対しては、個別にパワハラ研修や部下とのコミュニケーションを促進したりする必要があること、人手不足や競争する雰囲気の職場環境では、性格特性が増幅されてパワハラを引き起こす可能性があるため、適切な人員を確保・配置し、過度な競争主義に陥らないような適正に評価する仕組みをつくる必要があることを示唆している。