| 執筆者 | 浅川 慎介(佐賀大学)/阿部 眞子(日本経済研究センター)/大竹 文雄(ファカルティフェロー)/佐野 晋平(神戸大学) |
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| 研究プロジェクト | 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「機能するEBPMの実現に向けた総合的研究」プロジェクト
学級規模(クラスサイズ)の縮小の効果検証はその政策的重要性から国内外で多く研究されているが、子どもの教育アウトカムへの効果をゼロとするものから社会経済的に不利な層で一定の効果を持つとするものと様々である。この違いは学校資源と家庭資源投入の相互関係、つまり公教育の変化に対し家庭が反応から生み出される可能性がある。たとえば、クラスサイズの縮小により公教育の質が向上しても、家庭はその動きに代替するように私的な教育投資を減らせば、クラスサイズが教育アウトカムに与える効果は相殺されてしまう。このような学校資源と家庭資源投入の相互関係の検証は識別の困難さや必要とするデータの制約より、研究は多くない。そこで、本研究は、学力調査の結果とアンケート結果からなる児童生徒のパネルデータに学校別学級数、児童生徒数、そして世帯に関する行政データを接合し、クラスサイズ、教育アウトカムそして家計の行動の関係を分析した。
分析方法
分析は学級編成ルールの特徴を利用した回帰不連続デザインである。教育アウトカムを被説明変数、クラスサイズを説明変数としたモデルを最小二乗法による結果はバイアスを持つことが知られている。教育熱心な親は小規模クラスにいれようとするかもしれないからだ。このようなバイアスを回避する方法はクラスサイズを外生的に決める学級規模編成ルールの特徴を利用することだ。クラス上限が35人の場合、学年生徒数が35人ならば1クラスだが、36人ならば18人ずつの2クラスに分割される。同じことは35の倍数の前後で生じる。図1は、編成ルールから予測されるクラスサイズ(実線)と、観察される平均クラスサイズ(各点)の関係を示している。35の倍数(点線)周辺で平均クラスサイズが不連続に変化するが、その周辺は限りなく同質とみなすことができるため、その周辺比較によりクラスサイズが教育アウトカムに与える効果を検証できる。
分析結果
表1は2018年から2019年の尼崎市の公立小中学校の児童生徒パネルデータを用いた分析結果である。被説明変数を教育アウトカム(テストスコアと勤勉性)とした場合、クラスサイズの削減は小学生の算数の学力スコアや勤勉性に影響を与えず、中学生の数学スコアや勤勉性を引き下げる。このような結果を生み出す要因として、クラスサイズの変化に家計が対応している可能性を検証する。クラスサイズの変化と子どもの勉強時間や家庭の学習への関与の関係を分析した結果が表1の列(5)から(8)である。結果によると、中学生に関しては、クラスサイズが拡大するとそれに反応するように子どもの勉強時間は増え家庭の学習への関与は増える。これが、列(3)、(4)で観察されたクラスサイズの拡大が学力を上昇させる結果をもたらしたと考えられる。
経済的制約に直面しているか否かで効果が異なることもわかった。小学生に関しては、クラスサイズの縮小により家庭の関与は変化せず、勉強時間は就学援助不受給グループで減るが、就学援助受給グループで増える。また、コロナ禍後のデータを用いた分析によると、小学生ではクラスサイズの削減により勉強時間は増える傾向にあるにもかかわらず、学力スコアには大きな影響は観察されない。
政策的含意
本研究は、学校資源の変化と家庭の教育投資の相互関係により、クラスサイズの影響は家庭資源の変化に相殺されることを示した。同時に、社会経済的に不利な世帯は家庭資源を十分に変化させられず、学校資源の質向上の影響を受けやすいことも示した。クラスサイズの変更の子どものアウトカムへの影響は、学校資源の変更を通した影響だけではなく、それによる家庭の教育投資行動を通した変化も考慮する必要がある。