ノンテクニカルサマリー

認知能力、非認知能力、世帯構造の特徴と長期欠席との関係性

執筆者 浅川 慎介(佐賀大学)/阿部 眞子(日本経済研究センター)/大竹 文雄(ファカルティフェロー)/佐野 晋平(神戸大学)/名方 佳寿子(摂南大学)
研究プロジェクト 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「機能するEBPMの実現に向けた総合的研究」プロジェクト

児童生徒の長期欠席は、学業成績や最終学歴の低下を招き、将来の労働市場における賃金や雇用といった成果を悪化させるなど、人的資本の形成を阻害する重大な課題である。特に日本においては、コロナ禍以降に長期欠席者数が急増しており(年間30日以上の欠席者の割合は2018年度の2.47%から2024年度には5.52%へと倍増)、その原因・背景の究明と、必要な政策的介入の特定が急務となっている。

これまでの研究から、長期欠席は家庭環境や学校要因と密接に関連することが示唆されてきた。しかし、先行研究には以下の限界があった。第一に、将来の成果と密接に関連する「児童生徒の認知・非認知能力」や世帯構造を考慮した実証研究が極めて限定的であったこと。第二に、欠席理由(不登校、病欠、家事都合など)別に児童生徒の特徴を検証した知見が乏しかったこと。第三に、コロナ禍前後において、児童生徒の属性と長期欠席との相関関係がどのように変容したかが十分検討されてこなかったことである。

本研究は、兵庫県尼崎市の詳細な行政マイクロデータ(2018〜2023年)を用い、個人レベルの詳細なパネルデータ(学力テスト、非認知能力、世帯構造、就学援助等の情報)に基づいて、これら3つの課題を実証的に明らかにすることを目的とする。

主な分析結果

本研究から得られた主な知見は以下のとおりである。(図1参照)

第一に、特定の属性を持つ児童生徒において、長期欠席に陥るリスクが高いことが確認された。具体的には、ひとり親世帯や生活保護受給世帯の児童生徒、および算数/数学のスコアが低い児童生徒は長期欠席のリスクが高い。また非認知能力に関しては、外向性、協調性、勤勉性、感情的安定性が低く、開放性が高い児童生徒ほど、長期欠席のリスクが高まる傾向が示された。特筆すべきは、これらの属性をコントロールした後でも、2023年の長期欠席確率は2019年と比較して大幅に高い水準にある点である。

第二に、長期欠席の「理由」によって、関連する児童生徒の属性や家庭環境が明確に異なることが明らかになった。「事故欠不登校」や「病欠」を理由に欠席する児童生徒は性格的特性に課題を抱える傾向があり、さらに「病欠」の場合は追加的に経済的・家庭環境的にも問題を抱えている可能性が示された。一方で、「家事都合」を理由に欠席する児童生徒には学力や性格的特性の影響は見られず、主に経済的な問題を抱えていることが推察された。

第三に、コロナ禍における長期欠席の増加要因についてBlinder-Oaxaca分解を用いて分析した結果、この増加は「児童生徒自身の属性の変化」によるものではなく、学力、非認知能力、家庭環境といった「既存の要因が欠席に与える影響力が増幅したこと(係数効果)」に起因していることが示唆された。また小学生においては、学級規模が欠席に与える影響の増大も確認された。

政策的含意

本研究の結果は、今後の不登校・長期欠席対策に対していくつかの重要な示唆を与える。

第一に、介入の早期化である。小1時点での問題顕在化を踏まえ、入学直後からのモニタリングと低学年へのプッシュ型支援を強化し、将来のリスクを未然に防ぐ必要がある。 第二に、算数・数学に特化した学習支援である。教科の積み上げの性質上、未習得事項の補完は学習意欲の減退を防ぎ、有効な予防・再登校支援策となる。 第三に、理由に応じた個別支援の展開である。経済的理由には就学援助を、心理的理由にはカウンセリングや多様な学びの場を、背景に即して提供すべきである。 第四に、福祉・労働部局と連携した包括的支援である。ヤングケアラー等の家庭の構造的課題に対し、SSWを核とした多職種によるアウトリーチ体制を構築し、生活全般に寄り添う支援が不可欠である。

総じて、本研究は、近年の長期欠席の急増を単なるパンデミックの一時的な影響として片付けるのではなく、既存の教育格差や家庭環境の課題が顕在化・深刻化した結果として再解釈し、構造的な支援策を講じる必要性を示している。

図1 「長期欠席確率」の説明変数の係数Plot
図1 「長期欠席確率」の説明変数の係数Plot
注:図のドットが係数であり、バーは95%信頼区間を示す。児童生徒ごとの2019年度から2023年度のパネル構造のデータを用い、年・学校・学年・クラスサイズ固定効果を加えたPooled OLSで推定した。標準誤差には学級クラスターロバスト標準誤差を用いた。