| 執筆者 | 関 陽一(千葉大学)/関沢 洋一(上席研究員)/清水 栄司(千葉大学) |
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| 研究プロジェクト | 医療と健康についての今後の政策のあり方を探求するための基礎的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「医療と健康についての今後の政策のあり方を探求するための基礎的研究」プロジェクト
勤労者のメンタルヘルスに起因する生産性の低下が経済活動に及ぼす影響について注目が高まっている(日本経済新聞2025年11月30日第1面)。最近の研究によれば、心の不調に起因するプレゼンティーイズム(出勤はしているものの本来のパフォーマンスが発揮できない状態)による損失額が7.3兆円、アブセンティーイズム(欠勤)による損失額が0.3兆円と試算されており、心の不調がウェルビーイングの悪化のみならず、労働生産性に悪影響を及ぼすことが懸念される (Hara, Nagata, Matoba, & Miyazaki, 2025)。
心の不調に伴う損失はある程度回避可能であり、職場におけるストレスへの対処や、不安・うつの予防のための介入を受けた労働者は生産性が高いというエビデンスが示されている(Carolan et al. 2017 )。このことは、勤労者のメンタルヘルスに対する適切な取り組みについて、医療の問題として捉えるだけでなく、経済成長戦略の重要な柱として位置付ける価値があることを示唆している。
この研究では心の不調のうち不安に焦点を当てた。医療機関を受診しておらず精神疾患の診断を受けていないものの不安の問題を有する勤労者を対象として、不安を軽減するためのWeb心理教育プログラムの効果をランダム化比較試験(研究参加者を介入群と対照群にランダムに分けて介入の因果効果を検証する実験的手法)を用いて検証した。介入群は本プログラムを実施し、対照群はWEBにアクセスして時刻と天気の入力を週1回の頻度で4週間行った。
分析結果と考察
インターネット調査会社による募集に応じた人々のうち不安の水準が高かった516人を介入群と対照群に各258人ずつランダムに割り付けた。解析対象者は介入群で175人、対照群で180人であった。分析の結果、主要評価の心配尺度PSWQ は、4 週時点で介入群が対照群より小さいながらも有意に改善し、8週時点のフォローアップ評価でも有意な改善効果は維持された(図1)。うつ尺度PHQ-9、不安尺度GAD-7、パフォーマンス尺度WHO-HPQにおいては介入群と対照群に有意差はなかった。
本介入の効果は全体としては小さく、また、うつや不安の軽減が観察されなかったことから、プログラムの更なる改善を進めて広く利用可能なものとする必要がある。
- 引用文献
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- Carolan, S., Harris, P. R., & Cavanagh, K. (2017). Improving employee well-being and effectiveness: Systematic review and meta-analysis of web-based psychological interventions delivered in the workplace. Journal of Medical Internet Research, 19(7), e271. https://doi.org/10.2196/jmir.7583
- Hara, K., Nagata, T., Matoba, M., & Miyazaki, T. (2025). The impact of productivity loss from presenteeism and absenteeism on mental health in Japan. Journal of Occupational and Environmental Medicine, 67(9), 699–704.