| 執筆者 | 内田 大輔(慶應義塾大学)/牛島 辰男(慶應義塾大学) |
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| 研究プロジェクト | 企業統治分析のフロンティア |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト
日本企業の取締役会は、社外取締役が法的に定義された2001年商法改正以降、大きく変貌してきた。従来、多くの日本企業の取締役会は、主に社内出身の取締役(社内取締役)から構成され、代表取締役である経営者を頂点とする階層を有していた。しかしながら、1990年代後半に台頭し始めた海外機関投資家を中心とする株主からの圧力や、2010年代半ば以降のコーポレートガバナンス・コードの策定および改訂を背景に、日本企業において社外取締役が選任されるようになり、2002年に4%程度であった取締役会に占める社外取締役の比率(取締役会の独立性)は、2024年には40%超にまで増加した。
本研究では、この取締役会改革が、企業と従業員との関係にどのような影響をもたらしたかについて、とりわけ人員削減に注目して実証分析を実施した。具体的には、2002年から2024年の日本の上場企業のパネルデータを用いて、取締役会の独立性が希望退職の募集に与える影響を明らかにした。
本研究の実証分析は、図のように整理することができる。第1に、取締役会の独立性が高まるにつれて、企業が希望退職の募集を実施する可能性が統計的に有意に高まることが確認された。第2に、この独立した取締役会による希望退職の促進効果は、すべての企業で一律に現れるわけではなく、従業員の平均勤続年数が長い企業や、企業業績が良好な企業において特に顕著となる。第3に、これら2つの条件が同時に満たされる場合の効果を分析したところ、従業員の平均勤続年数が長く、かつ企業業績が好調である企業において、取締役会の独立性が希望退職の募集に与える影響が最も大きくなることが明らかにされた。
これらの分析結果は、独立性の高い取締役会において、社外取締役が社内のしがらみに囚われることなく、経営者に対して痛みを伴う改革を迫る役割を果たしていることを示している。そして、そのような社外取締役が担う役割は、従業員の勤続年数が長い、企業業績が好調であるといった、経営者が希望退職の募集に踏み切ることを躊躇しがちな状況においてより顕著になるのである。特に、企業業績が好調であるときに取締役会の独立性の効果が強くなるという分析結果は、近年の日本企業において増加している、業績好調下での人員削減、いわゆる「黒字リストラ」の実態を実証的に裏付けるものといえる。
一連の分析結果は、取締役会改革の影響がコーポレートガバナンスの向上にとどまらず、日本企業の雇用や労働市場へ波及していったことを示唆している。今後の政策においては、コーポレートガバナンス改革の推進と、労働市場の柔軟性向上や社会的セーフティネットの整備といった労働市場改革とを整合させる、統合的なアプローチが期待される。