ノンテクニカルサマリー

大学選択におけるジェンダー化されたロジックに対する新しい視点:日本の大学入試における大学選抜性とジェンダー分離に対する多次元的アプローチ

執筆者 打越 文弥(シンガポールマネジメント大学)/中尾 走(愛媛大学)
研究プロジェクト 労働市場における男女格差の原因と対策 ― 人的資本、教育、企業人事、職業スキルの観点からの理論及び計量研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「労働市場における男女格差の原因と対策 ― 人的資本、教育、企業人事、職業スキルの観点からの理論及び計量研究」プロジェクト

本研究は、日本の高校生がどの大学・学部を志望し、その後どの大学・学部に出願するのかを、男女別に分析したものである。特に、夏の全国模試で示された複数の志望先と、実際の出願先を比較することで、男女差がいつ、どのように生じるのかを検討した。

分析の結果、男女差は出願時点ではなく、すでに夏の模試の段階で確認された。学力、在籍高校、地域などを考慮しても、男子は女子よりも選抜性の高い大学・学部を志望する傾向があった。この差は第一志望だけでなく、第二志望以下にも及んでいた。つまり、男女は同程度に選抜性の高い第一志望を掲げている場合でも、その後に並べる選択肢の組み合わせが異なっていた。

一方、夏の志望から実際の出願に移る段階では、従来想定されていたパターンは確認されなかった。一般には、女子の方が自信やリスク許容度が低く、出願時により安全な大学へ変更するため、男女の選抜性格差が拡大すると考えられてきた。しかし、本研究では、男女の選抜性格差はむしろ縮小した。男子の方が、夏の第一志望よりも選抜性の低い大学へ出願する傾向が強かったためである。

次に、学力、地域、在籍高校など、夏の模試の時点で確認できる特徴が男女で同じであると仮定した場合でも、実際に出願した最も選抜性の高い大学・学部には、男子の方が女子より平均で2.37パーセンタイル順位高いという差が残った。2.37パーセンタイル順位という差は、例えば東京大学経済学部(99.8パーセンタイル)と東京外国語大学英語専攻(97.8パーセンタイル)の差に相当する。また、より中程度の選抜性の大学では、広島大学経済学部(83.7パーセンタイル)と埼玉大学教育学部(81.7パーセンタイル)の差に相当する。

最後に、逐次要因分析という手法を用いたところ(図参照)、夏の模試で示された志望の違いは、実際の出願時の男女差(2.37パーセンタイル)の約70%を統計的に説明した(図のbaselineと+First choiceを比較)。第一志望だけでも約44%を説明し、第二志望以下を加えると、説明される割合はさらに高まった(+Third choiceまでの比較)。ただし、約30%の差は、学力や夏の模試での複数の志望先を考慮しても残った。このことは、男女差が、事前に形成された志望の違いだけでなく、志望を出願行動へと移す過程の違いからも生じている可能性を示している。

この結果から、政策的には、大学出願直前だけでなく、より早い段階から支援を行う必要があると考えられる。第一に、高校での進路指導では、第一志望だけでなく、第二志望以下を含む複数の選択肢を検討できるようにすることが重要である。特に女子生徒に対しては、特定の分野や大学が「自分には向いていない」と早い段階で限定されないよう、学部・職業・大学に関する情報を幅広く提供する必要がある。理工系や経済学など、性別による固定観念が残る分野については、女性の卒業生や在学生の事例を示すことも、選択肢を広げる一つの方法になり得る。

第二に、進路指導では大学の選抜性だけでなく、学部、将来の職業、通学可能性、費用、家庭の事情などを組み合わせて比較できる情報を提供することが求められる。本研究では、女子の志望が必ずしも単純に「安全志向」であるとは確認されなかった。むしろ、専攻分野や通学可能性など、複数の条件を同時に満たす大学を探している可能性がある。そのため、女子に対して単に「もっと挑戦すべきだ」と促すだけでは不十分であり、本人の関心や将来計画に合う大学の選択肢を実際に増やす支援が必要である。

第三に、出願直前の支援も重要である。模試の判定や合格可能性に関する情報を分かりやすく提供し、複数の出願先をどのように組み合わせればよいかを、生徒一人ひとりに即して助言する仕組みが考えられる。その際、男子には挑戦を、女子には安全策を勧めるといった性別に基づく進路指導を避け、同じ学力や希望を持つ生徒には性別にかかわらず同等の情報と選択肢を提示することが重要である。

さらに、国公立大学のように出願できる大学数が限られる制度では、一つの出願判断に伴うリスクが大きくなる。出願機会の制約や入試日程のあり方が、男女で異なる出願行動を生み出していないかを検証することも必要である。複数の出願機会を設けることや、出願後に進路変更の余地を広げることが、特定の性別に偏ったリスクを軽減する可能性もある。

総じて、本研究は、選抜性の高い大学への男女差を理解するためには、出願時点の行動だけを見るのでは不十分であることを示している。夏の模試以前から形成される志望の幅や組み合わせ、そしてその後に志望を出願へと移す過程の双方に着目する必要がある。今後は、どのような情報提供や進路指導が生徒の選択肢を広げ、性別にかかわらず本人の希望に近い出願を可能にするのかを、実証的に検証することが求められる。

出願大学最大偏差値ランクの男女差の逐次要因分析の結果
出願大学最大偏差値ランクの男女差の逐次要因分析の結果