| 執筆者 | 菊池 信之介(カリフォルニア大学サンディエゴ校) |
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| 研究プロジェクト | 国際金融が産業構造とマクロ経済に与える影響 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「国際金融が産業構造とマクロ経済に与える影響」プロジェクト
グローバル経済において、日本の比較優位は何だろうか。国際経済学の教科書を開くと、その説明の一つとして、ヘクシャー=オーリン・モデルが挙げられている。例えば、各国で資本と労働の相対的な豊富さが異なるとすれば、「労働が資本に対して相対的に豊富な国ほど、労働集約的な産業に比較優位を持つ」というものである。この論理は労働者のスキルについても適用され、「非大卒労働者が相対的に豊富な国ほど、生産労働者を多く用いる産業に比較優位を持つ」と予測される。実際、1960年代から1980年代には、欧米諸国に比べて非大卒労働者の割合が高かった東アジア諸国は、生産労働者を必要とする製造業を相対的に多く輸出していた。しかし、機械が人の仕事を代替する自動化が進んだ21世紀にも、この関係はなお成り立つのだろうか。
そこで、本論文前半では、世界143カ国・製造業390部門の貿易データを用い、1980年から2015年まで、各国の「スキルの豊富さ」と各産業の「スキル集約度」の組み合わせが輸出をどの程度説明するかを推定した。ここで、スキルの豊富さは25~64歳人口における大卒者と非大卒者の比率、スキル集約度は米国の各産業における非生産労働者の賃金シェアで測っている。推定結果によれば、この関係は1980年から1995年までは正で統計的に有意だったが、2000年と2005年には統計的に有意ではなくなり、2010年と2015年には負で統計的に有意となった。すなわち、「非大卒労働者が相対的に豊富な国ほど、生産労働者を多く用いる産業に比較優位を持つ」という20世紀型のパターンは、21世紀には消失し、むしろ反転している。この傾向は、資本の豊富さや制度の質を考慮しても、国のスキル構成や産業のスキル集約度を基準年に固定しても変わらない。
なぜか。そこで、本論文後半では、非製造業も含む多国多部門の国際貿易モデルを構築し、1980年の世界経済に、2014年までに観察された自動化、貿易費用、オフショアリングの変化を一つずつ加えた。モデルにおける自動化とは、従来は生産労働者が担っていたタスクが、相対的に安くなった機械・設備に取って代わられることである。
図1は、スキルに基づく比較優位の低下を要因分解した結果である。モデルに合わせたサンプルでは、スキルに基づく比較優位を表す係数が1980年の1.38から2015年には-0.23まで低下し、符号も反転した。この低下の67.0%は貿易費用の低下、39.8%は自動化によって説明される一方、オフショアリングは15.3%分だけ低下を打ち消した。残る8.6%は、これら三つの要因では説明されない残差である。
貿易費用の効果の大部分は、各国の生産者にとって、どの海外市場にどれだけアクセスしやすいかが変わる「市場アクセス」の経路によるものである。中国が世界市場に本格的に組み込まれ、グローバル経済に大きな存在感を持つようになったことも重要である。一方、自動化によって、ドイツや日本のように生産労働者が相対的に希少な国でも、生産労働者が担っていたタスクを機械で代替し、従来は生産労働者を多く必要としていた産業で競争力を維持しやすくなる。
マクロ経済にはどのような示唆があるのか。貿易費用の低下と自動化は、スキル間賃金格差と経済厚生(実質所得)に対して相互補完的に作用する。同じ自動化が起きても、貿易費用が低い世界ほど、機械・設備や中間財の調達先、生産ネットワークが変わるため、機械の価格低下がタスク配分や物価に及ぼす影響がより強くなる。その結果、自動化がスキル間賃金格差と実質所得に与える影響も大きくなる。これは、同じ技術進歩の帰結が国際市場とのつながり方によって変わることを意味している。
これらの結果は、比較優位や格差を、生産技術、すなわち各産業でどの生産要素をどれだけ必要とするかを所与として説明することの限界を示している。自動化によってタスクの担い手が人から機械へ移れば、同じ産業であっても必要な労働の種類や量が変わり、その国にとっての比較優位も変わり得る。日本の比較優位を考える上でも、労働供給の制約が強まる中では、より大胆な自動化を進めることで、むしろ新たな活路となる産業が見えてくるかもしれない。ただし、その活路は自動化技術だけで決まるわけではなく、機械・中間財を海外からどれだけ調達しやすいか、海外市場にどれだけアクセスしやすいかにも左右される。また、自動化による実質所得の向上と、スキル間賃金格差の拡大は同時に起こり得る。したがって、自動化投資と開かれた貿易環境を支える一方で、タスクや職種の転換を支える教育訓練や、変化の負担が集中する労働者への支援も併せて考える必要がある。