| 執筆者 | 家富 洋(立正大学)/吉川 洋(東京大学) |
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| 研究プロジェクト | 経済の非対称性と日本経済の課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「経済の非対称性と日本経済の課題」プロジェクト
バブル崩壊後のわが国では、度重なる財政出動、金融緩和によっても持続的な経済成長が生まれず、「失われた30年」という表現が定着した。2008年のリーマンショック後の米国においても、「長期停滞論」が有力となった。長期停滞論は、第2次世界大戦前にハーバード大学教授でケインジアンとして有名だったアルビン・ハンセンが、戦後は需要不足から米国経済が長期停滞に陥ると警告したことに由来する。ハンセンの「予言」は、米国経済が戦後も好況を続けたことからいつしか忘れ去られることになったが、リーマンショック後にハーバード大学教授で財務長官も務めたローレンス・サマーズが長期停滞論を再び唱えた。伝統的な長期停滞論では、人口動態や革新的技術の枯渇が重視されたが、バブル崩壊後の日本経済やリーマンショック後の米国経済に関する議論では、教科書的な財政/金融政策の有効性に疑問符がつけられた。とりわけマクロ経済政策の有効性を損なう要因として、「不確実性」が注目されている。
本論文では、この問題につき理論的な考察を行った。スタンダードなミクロ的基礎づけを持つマクロ経済理論の問題点を整理した上で、それに代わる統計物理学的な方法を説明した。こうしたモデルは、ミクロ経済主体の最適化を明示的に分析していないため、主流派の経済学者には受け入れられないのだが、抽象的なモデルであるがゆえに頑健である。このモデルを用いて、不確実性の高まりが財政金融政策に代表されるマクロ経済政策の有効性を低下させることを示す。
われわれの理論モデルにおいては、政策の「効果」(一定の財政/金融政策を行ったときに、どれだけGDPを増大させるか)\(f(\Delta)\)は、図にあるとおり、マクロ経済の有効需要がもともとどのような水準にあるかを表す\(\Delta\)に依存する。図中で\(\Delta\)が0に近いときは、有効需要、したがってGDPの水準が低く、逆に\(\Delta\)が大きいと(図中では右端の「6」の場合)「完全雇用」の状態となる。GDPの水準が低いときには、マクロで「エントロピー」が大きいが、それはミクロの経済主体にとっては「不確実性」が大きいことを表す。図にあるとおり、\(\Delta\)の関数としての\(f(\Delta)\)は山型になる。これは、モデルの詳細に依存しない統計物理学的にきわめて一般的な結果である。完全雇用の状態(図の右端)では、政策の効果がほとんどなくなる(\(f(\Delta)\)が0になる)のは自明だが、山の左側では、不況が深まりエントロピーが高まるのと平行して政策効果が弱まる。このように深刻な不況(図で\(\Delta\)が原点0の近傍)の下で不確実性が高まると政策の効果が弱まることは、モデルの詳細に依存しない頑健な結果であり、マクロ経済学で忘れてはならない知見と言えよう。