| 執筆者 | 本庄 裕司(ファカルティフェロー)/池田 雄哉(科学技術・学術政策研究所) |
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| 研究プロジェクト | スタートアップ振興における人的資本と金融資本の多様性と政策的課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「スタートアップ振興における人的資本と金融資本の多様性と政策的課題」プロジェクト
宇宙は「ビッグバン」(Big Bang) からはじまった。しかし、その瞬間を目撃した者はいない。人類が観察できる宇宙は、誕生から長い年月を経た後の姿だ。科学者たちは、残された痕跡を手掛かりに、観察できない期間の状況を理解しようと試みる。社会科学も同様だ。たとえ直接その当時の行動を観察できなくても、その後の状況から間接的に調べる余地はある。その人が去って、はじめて影響力の大きさを知ることができる。
創業者CEOの効果
スタートアップ振興政策において、経済成長に寄与する企業の創業者の役割は重要な論点だ。創業者、正確には創業後も経営を担う創業者CEO (chief executive officer) は、企業へのコミットメントと組織との一体感が強く、心理的な側面を含めて企業パフォーマンスに大きな便益をもたらす (Abebe and Tangpong, 2018)。日本企業を対象とした実証分析では、創業者CEOが率いる企業は、困難な時期でも事業を存続させる「レジリエンス」(resilience) が高い (Honjo and Kato, 2022)。また、新興市場のIPO (initial public offering) 企業では、その後に買収されて非上場を選択する確率が低い一方、本則市場へ昇進しやすい (Honjo et al., 2026)。しかし、創業者CEOが経営を続けることが常に正解とは限らない。企業のライフサイクルに応じて必要なマネジメントが変化するならば、適切な時期に後継のCEOへの交代が望ましいこともある。加えて、創業者CEOの継続が独善的な意思決定につながる場合、経営者エントレンチメント (entrenchment) の温床になりやすい。このように創業者CEOには正負の効果が共存する。
IPOと創業者CEOの検証
IPOは、株式を証券取引所で流通させ、企業にとって、公募によるエクイティファイナンス (equity finance) を可能にする。それだけでなく、創業者をはじめ、初期の投資家にとって、売出しを通じて創業者利得を得る大きなイベントとなる。他方、研究者にとっても、IPOは、財務諸表や株価など分析に必要なデータを入手できる重要なイベントだ。有価証券報告書が開示されることで、CEOを含む経営者情報を入手する機会となる。企業の設立年月とCEOの就任年月を比較すれば、IPO時のCEOが創業者CEOかを識別できる (Honjo et al., 2026)(注1)。実証分析では、データの制約を考えれば、IPO後に軍配があがる。
創業者CEOは、創業後にさまざまな困難に直面しながらも、IPOまでの間、多大な貢献を果たす。スタートアップ振興の視点からは、設立(創業)からIPOまでの人的資本に関心が高く、IPO後のデータを用いて分析する場合でも、創業者CEOがIPOまで果たした貢献を無視できない。しかし、データとして入手可能なIPO後の業績には、創業からIPOまでの効果とその後の効果が混在する。本稿では、前者を「創業者CEO痕跡効果」(founder-CEO imprinting effect)、後者を「創業者CEO在籍効果」(founder-CEO tenure effect) と呼び、両者を識別する新たなアプローチに挑戦する。
そのアイデアを図1で説明しよう。まず、(i) IPOまで創業者CEOが継続している企業(創業者CEO)と、(ii) すでに交代した企業(非創業者CEO)を比較対象とする。つぎに、IPO後の観測期間中に、(A) CEOが交代していないグループ、(B) CEOが交代したグループの2つに区分し、それぞれの変化 (Δ) を比較する。(A) に限定して (i) と (ii) の変化を比較することで、創業者CEO在籍効果 (θ) を抽出する。また、(B) に限定して (i) と (ii) の変化を比較することで、創業者CEO痕跡効果 (λ) を抽出する。後者については、CEOが交代したグループでそれぞれ比較することで、IPOまでに創業者CEOの果たした効果を間接的に測定する仕組みといえる。
創業者CEO在籍効果と痕跡効果
推定結果から、創業者CEO在籍効果について、市場評価(トービンのq)や収益性 (return on assets; ROA) の変化にプラスの効果はみられなかったが、従業員数や売上高の変化にプラスの効果がみられた。このことから、創業者CEOがIPO後も経営を続けることは、企業規模の拡大に寄与すると示唆される。
つぎに、創業者CEO痕跡効果について、トービンのqやROAだけでなく、従業員数や売上高の変化にも有意な効果がみられなかった。創業者CEOのIPOまでの痕跡効果は、残念ながら確認できなかった。ただし、この結果は、IPO後にCEOが交代した企業に限定した推定結果にすぎない。多くの企業が創業者CEOのもとで未上場にとどまるとすれば、すべての創業者CEO痕跡効果を否定したわけではない。
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スタートアップ振興政策を検証する視点からは、創業からの継続的な観察が理想的といえる。しかし、創業後の過程を必ずしも観察できるとは限らず、観察できない期間の効果を検証したいジレンマに直面する。観察できない期間の状況をいかに検証するか、今後も新たな発想と挑戦が求められる。
- 脚注
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- ^ 創業者CEOがいったん交代して復帰した場合、それを捕捉することが困難なため、本稿では、創業者CEOの交代後の復帰を無視している。
- 参考文献
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- Abebe, M. A., & Tangpong, C. (2018). Founder-CEOs and corporate turnaround among declining firms. Corporate Governance, 26, 45–57.
- Honjo, Y., Ikeda, Y., & Kurihara, K. (2026). Founder-CEO resistance and ambition: An empirical analysis of firm survival in Japanese junior stock markets. Journal of Management and Governance, 30, 11–56.
- Honjo, Y., & Kato, M. (2022). Are founder-CEOs resilient to crises? The impact of founder-CEO succession on new firm survival. International Small Business Journal, 40, 205–235.