ノンテクニカルサマリー

非伝統的金融政策の不動産チャネル

執筆者 植杉 威一郎(ファカルティフェロー)/清水 千弘(一橋大学)/本田 朋史(神戸大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本研究は、2010年から2024年まで行われた日本銀行によるREIT(不動産投資信託)の購入政策が、経済にどのような影響を与えたのかを分析する。従来の研究では、金融政策が銀行を通じて実体経済に影響する経路(貸出チャネル)が主に注目されてきた。それに対して本研究は、銀行以外の主体であるREITに着目し、中央銀行によるエクイティ購入がリスクの取り方に及ぼす影響(リスクテイキング・チャネル)とその波及を明らかにする。

銀行以外の主体によるリスクテイクは、シャドーバンキングが世界金融危機の震源となったとの指摘や、近年のプライベートクレジットによる貸出拡大への懸念にみられるように、金融システムや経済全体に大きな影響をもたらす可能性がある。銀行とは異なる規制に直面するREITの行動やその影響についての知見を得ることは、金融市場に係る政策立案にとっても有用である。

日本銀行によるREIT購入は、リスクプレミアムを引き下げることが目標のひとつであった。本研究では、購入対象となる条件を満たすREIT(対象REIT)とそれ以外のREIT(非対象REIT)を比較し、本当にプレミアムが低下して資金調達コストが低下したかを検証するとともに、REIT自身の不動産購入に生じた変化を調べ、それが貸出市場や不動産市場に及ぼした影響を検証する。

4つの点が明らかになった。第1に、日本銀行の購入対象となったREITでは資金調達が容易になったため、株式発行や借入が増加した。第2に、対象REITでは、リスク・リターンの高い不動産、具体的には築年数が古く維持・修繕・設備更新費用がかかる一方で、収益率が高い不動産物件を取得する傾向が強まった(表参照)。第3に、REITに貸出をしていた銀行の行動に変化が見られた。資金需要が増加した対象REITへの貸出を増やすとともに、REITと似た業務を行っている上場不動産企業への貸出を減らした。第4に、不動産市場への波及効果も確認された。すなわち、REITが取得した物件に隣接する地域では、不動産価格の上昇幅が大きく、その傾向は対象REITが不動産を取得した場合により強くなった。

これらの結果は、日本銀行によるREIT購入政策が、資金調達コストを下げるだけでなく、REITのリスクテイク行動を変化させ、さらには銀行貸出や不動産市場にも影響を及ぼしたことを示している。こうした「非伝統的金融政策の不動産チャネル」は、企業の中でもREITに業務内容が近い不動産業企業、不動産市場の中でもREITが購入する物件に近い地域の不動産取引に強く波及している。通常の金融政策の波及チャネルよりも、影響の仕方に地理的な偏在がある点が特徴であると言える。

表:政策対象となるREITが取得した不動産物件の属性は、日銀によるREIT購入開始後にどのように変化したか
表:政策対象となるREITが取得した不動産物件の属性は、日銀によるREIT購入開始後にどのように変化したか
(注)購入対象となるREITと対象外のREITそれぞれが購入した不動産物件の属性を、政策導入前後で比較したもの。