ノンテクニカルサマリー

RCEPの経済的影響

執筆者 板倉 健(ファカルティフェロー)/木股 悠太郎(名古屋市立大学)/浦田 秀次郎(経済産業研究所 / 早稲田大学)
研究プロジェクト 世界貿易の再編と日本経済への影響分析
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「世界貿易の再編と日本経済への影響分析」プロジェクト

1. RCEP 協定の経済効果:背景

日本、中国、韓国、ASEAN、豪州とニュージーランドが加盟する世界最大規模の経済連携協定である RCEP(地域的な包括的経済連携)協定が、2022 年の施行後 5 年の節目を迎えた。来年 2027 年には RCEP 協定の包括的な見直しが予定されている。本稿の目的は、RCEP 協定が域内の貿易および投資に与えた影響を実証的に分析するとともに、より深い地域統合がもたらす中期的な経済効果を定量的に評価することである。このため、事後分析と事前分析を補完的に用いて検証を行う。

2. RCEP 協定の経済効果:事後分析

事後分析では、これまでに観察された貿易投資データに関税や貿易協定のデータを組み合わせ、貿易投資の実証分析では標準的な構造重力モデルの推定を行った。また、財輸入と関税についての分析も行った。その結果、RCEP協定は域内のサービス貿易を増加させる効果を持つことが示された(表(2)列を参照)。域内サービス貿易に対するRCEP協定の効果は約20%であった( = [exp(0.1814)-1]*100)。一方で、協定施行からの経過年数が少ないことや関税削減は長期間にわたることなどの原因もあり、RCEP域内の財輸入や対内直接投資への効果については統計的に有意な結果が得られなかった(表(1)(3)列を参照)。しかし、世界のRCEP協定と同程度かそれ以上に包括的な経済連携協定についてみると、加盟国の財輸入と対内直接投資を有意に増加させる効果を持つことが分かる。その効果について見ると、財輸入では約9%の押し上げ効果( = [exp(0.0877)-1]*100)、対内直接投資では約16%( = [exp(0.1455)-1]*100)と推定された。RCEP施行後、財輸入の関税に対する反応度合いが高まっていることから、財輸入には関税以外で貿易を抑制する何らかの原因、いわゆる非関税障壁の存在を示唆する結果と解釈できる。

表:RCEP協定の効果:輸入(財・サービス)と投資(対内FDI)
表:RCEP協定の効果:輸入(財・サービス)と投資(対内FDI)

3. RCEP協定の経済効果:事前分析

事前分析では、RCEP協定の将来シナリオを想定し、世界貿易モデルによる数値シミュレーションを実施した。生産工程が複数国にまたがるサプライチェーンはRCEP地域の特徴でもあり、各国の産業が相互に取引を行う中間財貿易を分析できるようモデルとデータベースを構築した。RCEP協定の将来シナリオには以下の4つを想定し、事後分析の推定結果を適用した。

  • S1:RCEP協定による関税削減(ステージング表から設定)
  • S2:S1に加えて、RCEP加盟国の財輸入にかかる非関税障壁削減
  • S3:S2に加えて、RCEP加盟国のサービス輸入にかかる貿易障壁削減
  • S4:S3に加えて、RCEP加盟国の対内直接投資にかかる投資障壁削減

将来シナリオのシミュレーション結果は、RCEP協定が存在しないと想定した反実仮想の結果と比較することで計算される。その結果を日本、ASEAN、RCEPの実質GDPへの影響について図示する。RCEP協定により貿易投資障壁が低下すると、2022年から2040年に向けて堅調に実質GDPが増加することが分かる。日本について見ると、実質GDPは1.5%の増加(S4, 2040年)であり、相対的にサービス輸入にかかる貿易障壁削減(S3)の貢献が大きいことが分かる。一方で、ASEANにおいては対内直接投資に対する障壁を削減することが、実質GDP増加により大きな貢献をすることで、1.8%に達する成長がみられた(S4, 2040年)。RCEP全体の実質GDPも1.5%拡大することから、RCEP協定が顕著な経済効果を持つことが示された。

事前分析と事後分析の結果から、RCEP協定の経済効果を確実なものとするためには、関税削減の着実な履行、財・サービス輸入にかかる非関税障壁の削減、対内直接投資の促進が重要であることが示された。2027年に予定されるRCEP協定の見直し議論において、これらの結果が一助となれば幸いである。

図:RCEP協定の効果:実質GDPへの影響(%)
図:RCEP協定の効果:実質GDPへの影響(%)