| 執筆者 | 齊藤 有希子(上席研究員(特任))/Xinyi TONG(Bank of Communication)/Kongphop WONGKAEW(Krungthai Bank) |
|---|---|
| 研究プロジェクト | イノベーション、グローバリゼーションと雇用 |
| ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「イノベーション、グローバリゼーションと雇用」プロジェクト
生産ネットワークは、世界経済の重要なシステムとして機能し、生産の特化を促進すると同時に、企業間でショックを伝播させる機能を持つ。既存研究では、これらのネットワークを静的な構造として、扱ってきたが、ネットワーク構造自体が経済ショックに応じて、どのように再形成されるかを捉えきれていない。本稿では、COVID-19パンデミック中に日本企業が企業間の取引関係をどのように構築し、破壊したかを検証することで、このギャップを埋める。本稿では、東京商工リサーチの大規模な縦断的データセットを活用し、このデータセットは、2015年から2023年にかけて約180万社の企業関係を追跡可能である。
これらのダイナミクスを分析するため、イベントスタディの枠組みを用いた。具体的には、t年からt+1年の間に企業が新規に構築した(added)または、終了した(dropped)取引パートナー(販売先(buyer)と仕入先(supplier))の数の自然対数を被説明変数とし、時間変化については、パンデミックのショックを基準とし、パンデミック前の変化(2018年から2019年)のベースラインからの逸脱を捉え、時間を-1とする。図1は、この基準期間に対する、各期間のネットワークの変化、すなわち、新規に構築または終了した取引パートナー数の平均パーセンテージ変化(黒のポイント)と95%信頼区間(ポイントに付加される黒の縦線)を示している。
これらの結果は、ショックに対する生産ネットワークの調整を示している。パンデミック初期段階(2019年から2020年)では、関係を断つ取引の数は基準年と比較して減少した。移動制限と不確実性の高まりにより、新しいパートナーを見つける取引コストが高くなり、企業は非効率的なものも含め、既存の関係を維持したと考えられる。この段階は2021年に終了し、関係の断絶を増やして、非効率的な関係を解消し始めたと考えられる。移動制限の緩和と不確実性の解消により、これらの取引を維持する価値が低下したと解釈できる。しかし、古い取引の断絶が急増する一方で、新しい取引の創出は相応のペースで回復せず、総生産ネットワークの縮小につながった。
我々の主要な発見は、ICTの活用が進んでいる産業とそうでない産業での違いにある。ICTの活用度は、各産業がICTスペシャリストを雇用する度合いによって分類する。図1の緑の線はICTの活用が進んでいる産業、青の線はそれ以外の産業の変化を示している。
具体的には、パネル(c)と(d)では、ICTの活用度が低い産業の企業(青い線)のバイヤーリンクとサプライヤーリンクの創出が、パンデミック発生時にゼロベースラインを大幅に下回り、その後も低迷が続くという明確な乖離が見られる。対面でのやり取りに依存しているデジタル制約のある企業は、新しいパートナーを効果的に探すことができなかったと推測される。対照的に、ICTの活用度が高い産業の企業(緑の線)は顕著な回復力を示し、ベースライン付近または上回っている。さらに、このような産業では、企業はより遠方の企業と取引を開始したことが示された。ICTの活用度が高い産業の企業がデジタルツールを活用することで、遠隔地でのパートナー探しに伴う情報摩擦を軽減できると説明できる。