ノンテクニカルサマリー

中小企業における公設試「未認知」からの脱却

執筆者 福川 信也(東北大学)
研究プロジェクト 国際的に見た日本産業のイノベーション能力の検証(Part 2)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「国際的に見た日本産業のイノベーション能力の検証(Part 2)」プロジェクト

中小企業にとって公的な技術支援は生産性の改善や現場課題の解決に役立つ可能性がある一方で、実際に利用している企業は一部にとどまる。本研究が着目するのは、利用が伸びない理由が「費用対効果を考えたうえで利用しないと判断した」ことだけではなく、その手前の段階、つまり“検討の俎上にすら載っていない”ことに大きな障害があるという点である。多くの企業は、公的な技術支援制度の存在をそもそも知らない、あるいは自社の課題と結び付けて理解できないために、選択肢として立ち上がっていない可能性がある。

分析対象は、公設試験研究機関(公設試)である。公設試は試験・分析、技術相談、試作支援など、製造現場の課題解決に直結する技術サービスを提供する公的組織である。本研究はすでに公設試を利用している企業から出発するのではなく、最初の関門である「知らない状態から、知っている状態へ移る」ことに焦点を当てる。この移行を、参加の最終判断というより「発見とナビゲーション」の過程として捉え、どのような企業が公設試を知るようになるのかを検討する。

分析には2021年から2024年に実施された年次オンライン調査を用いた。公設試認識の状態を(0)知らない、(1)知っているが利用していない、(2)利用している、の3つに分類し、「今年知らなかった企業が翌年に知る(または利用する)かどうか」を中心に分析した。この分析には同じ企業を翌年も観測できることが必要だが、継続して回答するかどうかは偶然ではない。そこで本研究は、翌年も回答する確率を推定し、回答が途切れやすい企業が過小に見えないように重み付けして補正した。

分析から得られた主な知見は以下のとおりである。第一に、未認知の企業は翌年も未認知のままにとどまる場合が多く、「未認知から抜け出す」こと自体が大きなボトルネックであることが確認された。第二に、未認知から認知へ移るかどうかには「情報を理解し活用する力」が強く関係する。理工系学歴を持つ経営者の企業や、過去にデジタル化投資に取り組んだ企業は、公設試を知るようになる確率が高い一方、企業規模や企業年齢は安定した関連を示さない。第三に、過去に補助金を受けた経験がある企業ほど、公設試を知るようになる傾向がある。つまり、補助金申請などを通じて公的支援に接触した経験が、関連する支援組織への“気づき”を生みやすい可能性がある。第四に、公設試までの移動時間(時間距離)は、観測できる標本が限られることもあり、明確な効果を確認できなかった。少なくとも認知段階では、物理的な近さよりも、「自社課題との関連性が分かるか」「利用の仕方がイメージできるか」「情報が記憶に残るか」といった認知的・情報的な障害の方が大きい可能性がある。第五に、大学との共同研究が活発な地域ほど未認知企業の公設試認知が進みにくい傾向がみられた。大学との連携など別の窓口が目立つ地域では、公設試が最初の相談先として認識されにくい可能性がある。

本研究の意義は、公設試利用の効果だけで政策を評価するのではなく、「そもそも知られていない」という上流の失敗自体が政策損失になり得る点を明確にしたことにある。利用拡大のためには、単に情報を増やすのではなく、入口の分かりやすさ、課題ベースの説明、低コストで繰り返し接点を持てる導線、そして情報処理能力が高くない企業でも“使える知識”として理解できる情報設計が重要である。