ノンテクニカルサマリー

AIデータセンターと電力需要:巨大需要家をどう抑制するか

執筆者 Willem THORBECKE(上席研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

人工知能(AI)の利用が爆発的に増加している。2022年11月、OpenAIは生成AIチャットボットであるChatGPTをリリースした。2025年2月に4億人であった週間利用者数は、2025年10月までに8億人まで増加した(Singh, 2025)。月間訪問数は58億に達し、1日あたりのクエリ数は20億件に達した。

4大テック企業であるAmazon、Google、Meta、Microsoftはこの巨大なAI潮流に乗っている。これらの企業は自社の製品・サービスへのAIの統合を進めてきた。AmazonはAIを活用してカスタマーサービスを強化している。GoogleはAIチャットボットであるGeminiを提供している。MetaはAIを利用して同社のソーシャルメディアアプリとメッセージアプリの機能強化を図っている。 MicrosoftはOpenAIと提携関係にある。

本稿では、ChatGPTがAI革命を巻き起こした2022年11月以降におけるこれら4大企業のパフォーマンスを調査する。これらの企業の時価総額は大きく上昇した。本稿の実証的証拠には各企業の時価総額が予想を上回って上昇したことが示されており、Amazonの上振れは5,000億ドル、Metaの場合には数兆ドルであった。

このような大きな上振れがあったにもかかわらず、ビックテック企業は、電力費用を減らすために電力会社と積極的に交渉を行っている。これにより、ビックテックの電力コストが他の顧客に転嫁される。図1は、2022年11月にChatGPTがリリースされて以降、米国の平均電気料金が15%以上、上昇したことを示している。Rapier(2025)は、2025年における米国の電気料金の急騰の第一の原因は、AIの電力需要にあるとしている。Saul et al. (2025)は、米国電力系統内の25,000箇所の地点別限界価格(Locational Marginal Pricing:LMP)ノードを分析し、データセンターから50マイル以内にあるLMPの75%において、2020年から2025年の間に電気料金が上昇したことを発見した。対照的に、電気料金が下がったノードの場合、データセンターから離れた場所に位置している傾向があると報告した。Electricityrates.com(2025)は、データセンターへの電力供給に必要な新たな電力インフラの費用は、全消費者に転嫁されると報告している。

本稿では、現在の価格設定慣行を改める必要があると主張する。規制当局における公聴会などにおいて、ビックテックのエネルギー需要を調査したり電力系統に関して実施すべき措置を決定したりするのではなく、AI企業に対して電力、送配電、バックアップなどを自前で調達することを義務付けるべきである。これにより、電力会社はAIのエネルギー使用量を取り巻く不透明性に晒されずに済む。データセンターが自らのコストを自己負担するようになれば、電気料金負担者がビックテックを補填せずに済み、データセンターにおける電力使用急増に電力系統が対処する必要がなくなり、AI企業にも節電インセンティブが生まれる。

データセンターの電力需要急増は、電力会社に対してガスその他の化石燃料を燃やす火力発電所の強化も強いる。この需要急増により、電力会社は、高経年化し二酸化炭素等排出量の極めて高い発電所を維持せざるを得ない。一例として、Martin and Peskoe(2025)は、Mississippi Power Companyが2025年に、電力需要の増加に対処するために、退役予定であった石炭火力発電所を強化した様子を報告している。電力会社には、需要増に対し、イノベーションを通じてではなく、ガスその他の化石燃料を燃やす火力発電所の利用を増やすことにより対処するというインセンティブが働く。Hyman and Tilles(2025)が指摘するように、現在のアプローチは、脱炭素化を図ることなくAIへの電力供給を増加させるというものである。

ビックテックにAIの環境コストを抑制するよう促す要素の一つとして、エネルギー消費量に関して、より高い透明性を求めることが挙げられるだろう。主要企業はすべて、ネットゼロ達成へのコミットメントを表明している。ステークホルダーは、環境フットプリントに関する情報をより多く要求することにより、ビックテックに説明責任を負わせるべきである。これにより、Bhagwati(1988, p. 85)がドラキュラ効果(「悪は日の光に晒すと退治しやすくなる」)と呼ぶ作用が働く。同業他社や社会からの圧力が刺激となり、テック企業は生態系への配慮を強化するようになる。

本稿では、データセンターのエネルギー需要を下げるイノベーションについても考察する。透明性がトランジスタレベルで高まれば、過度な電圧余裕が抑制される可能性がある。AIモデルは大規模なほど優れているという仮説から脱却することにより、エネルギー需要を削減できる可能性がある。絶縁流体を演算要素の近く又はパッケージ内に配置することにより、冷却効率が高まる可能性がある。データラックの電源を48 Vの配電系統ではなく800 V系統にすることで、電流を下げるとともに、付随する熱損失を低減できる可能性がある。情報を可逆的な方法で変換させ回路内でエネルギーを再利用することで、熱損失を低減できる可能性がある。使用する半導体を目下のタスクに合わせることは、汎用半導体を使用する場合と比べて、節電につながる可能性がある。キャッシングの分散および低精度推論は、動画生成に必要となる電力の削減につながる可能性がある。AIはエネルギーコストの削減にも活用できる。データセンターでは、発熱量の削減、電圧降下に伴うエネルギーの節約、推定モデルの小型化、ラックとサーバー間のケーブルによるエネルギーの無駄の削減、節水といった対策を講じるのに役立つ。パラディーノ(2025)は、AIがバッテリー、鉄鋼、ガラス、水素、アンモニア、銅などの生産におけるエネルギーの無駄を削減できることも指摘している。このように、AIは持続可能性を促進することができる。

産業、政府、大学等はこれらのイノベーションを追求しているが、ジェボンズのパラドックスを忘れてはならない。19世紀、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズは、石炭がより安価に、より効率的に利用できるようになるにしたがい、石炭消費量が実際には増加したことを発見した。データセンターの電力需要は爆発的に増加しており、二酸化炭素の排出量を増大させている。データセンターのエネルギー効率が向上する中、社会はAIの利用増加がさらなる環境破壊につながらないようにしなければならない。

図1. 米国都市における1キロワット時あたりの平均電気料金
図1. 米国都市における1キロワット時あたりの平均電気料金
出典:セントルイス連邦準備銀行FREDデータベース
参考文献