ノンテクニカルサマリー

既婚女性の教育水準と出生力のU字型関係:日本からの初のエビデンス

執筆者 劉 洋(研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)

1.背景と問題意識

日本では長期にわたり出生率の低迷が続いており、女性の高学歴化はしばしば「少子化の要因」として理解されてきた。従来の経済学および人口学の研究においても、女性の教育水準が高いほど出生力は低下するという負の関係が報告されてきた。

しかし近年、米国や欧州の一部では、保育サービスの拡充や働き方の変化を背景に、学歴と出生の間の従来の単調減少の関係が弱まり、さらにU字型の関係を示すという新たな実証結果が報告されている。日本においても2015年以降、「子ども・子育て支援新制度」の実施により、保育定員の拡大や待機児童対策が大きく進展してきた。

こうした状況の下で、日本においても女性の教育と出生力の関係に新たな変化が生じているのかを検証することは、少子化対策および人的資本政策の設計にとって重要な政策課題である。

2.先行研究

日本において2010年以前のデータを用いた多くの先行研究は、女性の教育水準と出生力の間に負の関係が存在することを報告している。

一方、近年の研究は、この負の関係が弱まりつつあることを示唆している。Ghaznavi et al.(2022)は、1970年代生まれコホートでは高学歴と低出生の関係が観察されなくなっていることを指摘し、Zhang(2025)は、高学歴女性と出生率の負の関連が長期的に緩和していることを示している。さらに、Kondo(2024)と近藤(2024)は、1970年代後半から1980年代前半生まれの女性について、30代後半において大学卒女性の出生児数が高卒女性を上回ること(Kondo 2024, p.8(注1))と、また前の世代と比べて1人の女性が産む子供の数は下げ止まっていたことを示している。

これらの研究はいずれも、市場化保育が大きく進展した2015年以降の教育と出生の関係に直接焦点を当てたものではなく、また個人属性、配偶者特性、地域要因を統制した枠組みでの検証を主たる目的とはしていないものの、女性の出生行動に生じつつある新たな変化を示唆する重要な知見を提供している。

本研究は、こうした先行研究の流れを踏まえ、2015~2020年の期間における日本の既婚女性を対象として、教育水準と出生力の関係を検証するものである。

3.主な分析結果の要点

本研究は、2020年国勢調査の個票データを用い、15~49歳の既婚女性(在学者を除く)を対象に、過去の出生歴、個人属性、配偶者属性、地域属性を統制した上で、教育水準と過去5年間の出生との関係を分析した。

第一に、年齢別の出生率を教育別にみると、20代前半では低学歴女性(小学・中学卒)の出生率が最も高いが、20代後半以降に低学歴女性の出生率は急速に低下する一方で、中位学歴(高校卒)および高学歴(短大卒・大学卒)の女性の出生率が上昇し、30代以降では高学歴女性の出生率が最も高くなる(図1)。

第二に、教育別の平均出生率をみると、教育水準の上昇に伴い出生率はいったん低下するが、高学歴層において再び上昇し、全体としてU字型のパターンが確認される(図2)。

図1:年齢階級別・教育別出生率(2015年-2020年)
図1:年齢階級別・教育別出生率(2015年-2020年)
図2:教育別出生率(2015年-2020年)
図2:教育別出生率(2015年-2020年)

第三に、回帰分析においても、高校卒女性は低学歴層より出生確率が有意に低い一方で、大学卒女性は低学歴層より出生確率が高く、教育と出生のU字型関係が統計的に有意に確認された。

第四に、労働供給との関係をみると、教育水準が高いほど労働参加率および正規就業率は一貫して高く、高学歴女性は低学歴女性と比べて、「高い出生力」と「高い労働供給」を同時に実現している可能性が示された。一方、学歴層ごとにみると、いずれの層においても就業と出生の間には依然として負の関係が存在し、とりわけ高学歴層では正規就業が出生確率の大幅な低下を伴うことも確認された。すなわち、市場化保育の進展により両立は一定程度進んでいるものの、仕事と出産のトレードオフは完全には解消されていない。

4.結果の解釈:所得効果と代替効果

これらの結果から、女性の教育が出生に与える影響は、賃金上昇を通じて家計資源を拡大する「所得効果」と、就業による時間制約を通じて出生を抑制する「労働供給の代替効果」という二つの力の相対的な大きさによって規定されると考えられる。

低学歴層と比べると、中位学歴層では代替効果が所得効果を上回るため出生が低下する一方、高学歴層では高い賃金水準による所得効果が代替効果を上回るため、出生が再び高まると考えられる。この結果、教育と出生の関係は単調ではなく、U字型を描くことが示唆される。

5.政策的含意

(1)女性に対する人的資本投資政策
本研究の結果は、女性の高等教育や高度人材育成を促進する政策が、適切な制度環境の下では、出生率と労働供給の双方を高め得ることを示唆している。女性のリーダー育成、理工系人材育成、デジタル人材支援などへの投資は、労働力不足への対応と少子化対策を同時に支える基盤となる可能性がある。

(2)保育・子育て支援政策
高学歴女性において高い出生力と高い就業率が併存していることは、保育所整備や育児支援の拡充が、出産と就業の両立を実際に後押ししてきたことを裏付ける結果と考えられる。保育の量的拡充に加え、質の向上や多様な保育サービスの整備を継続することは、人的資本の質の高い層の出産行動を支える上で引き続き重要である。

(3)働き方改革とワーク・ライフ・バランス 一方で、学歴にかかわらず就業と出生の間の負の関係が依然として強く、特に高学歴層ほどトレードオフが大きいという結果は、保育政策だけでは不十分であることを示唆している。長時間労働慣行、昇進競争と育児期の就業継続の両立の難しさ、性別役割分業を前提とした職場文化など、構造的要因への対応が不可欠であり、柔軟な働き方、評価制度の見直し、男性の育児参加促進を含む包括的なワーク・ライフ・バランス政策の強化が求められる。

6.まとめ

本研究は、日本の既婚女性において、教育水準と出生力の間にU字型の関係が存在することを国勢調査の個票データにより初めて体系的に示し、高学歴女性が低学歴女性より高い出生力と高い労働供給を同時に実現していることを明らかにした。これらの結果は、少子化対策、女性の人的資本政策、保育政策、働き方改革を相互に連携させる必要性を示唆している。

詳細な推定手法、参考文献および学術的議論については、DP本文を参照されたい。

なお、留意点として、日本に長期居住する外国籍住民については本稿とは異なる結果が得られており(別途報告予定)、本稿の結果は日本国籍の女性に限定されるものである。また、未婚化も少子化の重要な要因の一つであるが、結婚の意思決定(婚姻市場のマッチングを含む)は出産の意思決定とは性質が異なり、さらに日本では非婚出産が極めて少ないことから、本研究の分析結果は既婚女性に限定されたものである点にも留意されたい。

脚注
  1. ^ なお、当該先行研究において同結果を示した図(Figure 5)では、短大卒女性の出生率は大卒および高卒のいずれよりも高いことも示されており、学歴と出生率の関係は単調関係でもU字型関係でもないことが示唆される。ただし、この結果は教育別グループ平均の記述統計に基づくものであり、個人属性、配偶者特性、地域要因等を統制した回帰分析とは異なる分析枠組みによる知見である。
参考文献
  • 近藤絢子(2024)『就職氷河期世代:データで読み解く所得・家族形成・格差』中央公論新社(中公新書)
  • Ghaznavi, Cyrus, Haruka Sakamoto, Lisa Yamasaki, Shuhei Nomura, Daisuke Yoneoka, Kenji Shibuya, and Peter Ueda. "Salaries, degrees, and babies: trends in fertility by income and education among Japanese men and women born 1943–1975—analysis of national surveys." PLoS One 17, no. 4 (2022): e0266835.
  • Kondo, Ayako. "Subtle completed fertility recovery in cohorts who entered the labor market during the deep recession in Japan." RIETI Discussion Paper Series 24-E-063 (2024).
  • Zhang, Jiajie. "Trends in women’s education and fertility in Japan and China: a comparative analysis." The Journal of Chinese Sociology 12, no. 1 (2025): 10.