ノンテクニカルサマリー

重力モデルによるOECD加盟国への対内直接投資の要因分析

執筆者 関澤 久美(経済産業省)
研究プロジェクト 企業ダイナミクスと産業・マクロ経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「企業ダイナミクスと産業・マクロ経済」プロジェクト

1. 背景と目的

日本は人口減少に直面しており、経済成長のためには海外からの直接投資(FDI)を呼び込むことが不可欠です。政府は2030年までに対日直接投資残高を100兆円にする目標を掲げていますが、現在の対GDP比はOECD平均に比べて非常に低い状況です。この研究は、対日投資を促進する要因への示唆を得るため、重力モデルという手法を用いて、OECD加盟国への対内投資(FDI)の要因について、分析を行っています。

2. 研究のアプローチ

本研究では、OECD加盟国への直接投資データを用いて、FDIを呼び込むために必要な条件を明らかにすることを目指しています。特に、法人実効税率や産業構造に焦点を当て、これらがFDIに与える影響を探ります。

3. 主要な分析手法

重力モデルを用いて、二国間の経済規模や距離、法人実効税率、製造業の割合などの要因がFDIに与える影響を分析しています。対内投資額が少ない小規模国についても、適切に分析に組み込めるよう、ポワソン疑似最尤推定という手法を採用しています。

4. 研究の結果

分析の結果、以下のことが明らかになりました(図1参照):

法人実効税率の影響: 投資先国の法人実効税率が高い場合でも、FDIが集まりやすいことが示されました。FDIに影響する他の諸々の変数を省いているため、解釈に留意する必要があるものの、法人実効税率が高い国は社会保障やインフラの整備が進んでおり、安心して投資できる先と見なされている可能性があります。

法人実効税率の差: 投資先国の法人実効税率が投資元国の法人実効税率よりも低い場合に、FDIが増加する傾向がありました。特に、距離が遠くなるほど、この差の影響が強まることが確認されました。

産業構造の影響: 日本の製造業の割合が高いことがFDIにマイナスに寄与していることが示唆されました。製造業が多い国は、進出に当たってのコストや競争が厳しく、FDIの呼び込みに不利であると考えられます。

5. 政策への示唆

特に、投資先国の税率そのものよりも、相手国との税率の差に着目すべきであることが示されました。また、日本の製造業の割合が高いことがFDIにマイナスの影響を与える可能性も示唆されています。これにより、日本は法人税率が高く、製造業の割合も高いため、投資の呼び込みに不利な可能性が考えられます。

日本の法人税率を0.5%~2%引き下げるシミュレーションを行った結果、相手国への投資は減少する一方で、日本への投資は増加することが示されています。これは、法人税率の差が縮まることで相手国への投資インセンティブが減少し、日本への魅力が相対的に増すためと考えられます。

今後は、日本の法人税率引き下げに伴うメリット・デメリットを考慮しつつ、製造業以外の分野でも稼ぐ力をつけていくことが必要と考えられます。

図1.OECD加盟国への直接投資の要因分析
図1.OECD加盟国への直接投資の要因分析
注:青はプラスの係数、赤はマイナスの係数を表す。