執筆者 | 深谷 玲子(京都大学)/山田 和郎(京都大学) |
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研究プロジェクト | ハイテクスタートアップと急成長スタートアップにおけるアントレプレナーシップ |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「ハイテクスタートアップと急成長スタートアップにおけるアントレプレナーシップ」プロジェクト
動機
本研究は、日本における新規株式公開(IPO)企業が、上場後にどのような投資を行っているのかを明らかにすることを目的とする。企業はIPOを通じて多額の資金を調達するため、通常はその資金を使って成長のための投資を加速させると考えられている。しかし、実際にどのような投資行動がとられているのかについては、先行研究でも評価が分かれている。
これまでの多くの研究では、有形固定資産(建物・設備など)への投資に焦点が当てられてきた。しかし、近年ではソフトウェアやブランド、組織ノウハウといった「無形資産」が企業価値の大きな部分を占めるようになっている。特にIPO企業は、従来の製造業とは異なり、無形資産への依存度が高い傾向がある。そのため、本研究では、有形・無形の両方を含めた幅広い投資指標を用いて、IPO企業の投資行動をより多角的に捉えることで、多様化するIPO企業の行動を補足することを試みた。
分析対象は、2001年から2019年の間に日本でIPOを実施した企業である。比較対象として、同期間に上場していた既存企業も用いられている。既存企業とIPO企業は多くの面で異なることから、本研究ではいくつかの「マッチング手法」を活用したうえで分析を行った。
主な発見事項
IPO企業の投資の質の変化
IPO企業の投資の内容は時期とともに変化しており、有形資産への投資は減少し、無形資産への投資および企業買収が増加傾向にあることが分かった。また、研究開発投資は2012年前後をピークに減少、企業買収は増加傾向にある。なお、2001年を基準年とした、その後の投資額の変化を図1に掲載する。
2001年の投資基準を1としたときのその後の任意の年までの変化率を表す。

既存上場企業とIPO企業の比較
IPO企業は、既存の上場企業と比較して有形資産への投資が少ない一方で、無形資産への投資が多いことが確認された。さらに、マッチング処理を行うことで、IPO企業の中でも既存企業と大きく異なる特性をもつ企業が増えていることが分かった。これらの企業は、特に積極的な投資行動を示している。
企業規模や投資機会による違い
IPO企業の中でも、小型IPO企業(時価総額100億円未満)は中大型IPO企業に比べて投資額が小さい傾向にあるものの、既存の小型企業と比べると投資は活発である。また、IPO企業は、成長のチャンス(投資機会)が多い場合に、実際の投資を増やす傾向も確認された。
結論
IPO企業の性質はここ20年の間に変わっていることが確認された。
IPO後に企業の成長が低下することが指摘されることがある。しかしながら本研究では成長につながる投資活動に着目した。少なくともIPO企業が過少投資であるとの結論は確認できなかった。
近年、小型IPO(スモールIPO)の在り方に対しても問題視されることがあるが、本研究ではそのような小型IPO企業が過少投資であるとの結果は得られなかった。