ノンテクニカルサマリー

公設試験研究機関による技術普及サービスの生産性効果:COVID-19パンデミック前後の比較

執筆者 福川 信也(東北大学)
研究プロジェクト 国際的に見た日本産業のイノベーション能力の検証(Part 2)
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「国際的に見た日本産業のイノベーション能力の検証(Part 2)」プロジェクト

中小企業が設備や技術に関する支援を受けられる「公設試験研究機関(公設試)」のサービスが、企業の労働生産性に与える影響を検証した。調査には、全国の中小企業経営者などを対象に行ったアンケート結果を用い、2016~2019年の「パンデミック前」と、2020~2023年の「パンデミック期」に分けて分析を行った。分析の結果、以下の主要な知見が得られた(表1参照)。

  1. 公設試を利用した企業では、調査期間を通じて労働生産性が一貫して高い傾向にあった。一方、公設試の存在を知らないために利用していない企業もあり、制度の認知不足が生産性向上の機会を逃す要因となっている可能性がある。
  2. 研究開発やデジタル化などに力を入れている企業では、公設試の支援による生産性効果が大きかった。この傾向はパンデミック期に顕著に現れた。
  3. 生産性の高い企業ほど公設試を利用する傾向があったが、同等の能力を持ちながら利用していない企業も存在した。これは、それぞれの企業が自社の状況に応じて、公設試を使うかどうかを合理的に判断していたことを示している。この傾向は「比較優位」に基づく選択と解釈できる。
  4. 地理的に公設試から遠い企業では、サービスの利用が難しい傾向があった。しかし、パンデミック期には、オンライン対応の普及により地理的制約の影響は一定程度軽減された。
表1 主な分析結果
表1 主な分析結果
用語の補足
比較優位:利用企業・非利用企業のいずれも、自社の特徴や強みに応じて、公設試のサービス利用の是非を合理的に判断している状態。