ノンテクニカルサマリー

起業プロセスにおける媒介機関としての大学

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「ハイテクスタートアップと急成長スタートアップにおけるアントレプレナーシップ」プロジェクト

大学は起業プロセスにおける媒介機関として重要な役割を担い、スタートアップ創出に必要な資金、人材、知識へのアクセスを支援している。図1に示すように、起業エコシステムとしての大学は地域イノベーションシステムに埋め込まれており、その媒介機能も地域の集積構造から影響を受ける。

本研究では、2019年から2023年の1,027大学を対象とする産学連携データ、特許データ、科研費データを組み合わせ、大学の媒介機能(資源供給、コンサルティング、ネットワーキング)がスタートアップ創出に与える効果を検証するとともに、ネットワーキングの効果がイノベーション集積(都道府県別の民間企業特許出願件数)に応じてどのように変化するかを検証した。固定効果付き負の二項回帰モデルを用いた推計に加え、医学部の有無、所有形態(国立・私立)、立地条件(東京・非東京)によるサブサンプル別の推計を行った。

分析の結果、大学の基礎研究能力(科研費による研究活動)はすべてのモデルにおいて一貫してスタートアップ創出に対して正の効果を示した。外部組織とのネットワーク構築については、単独では有意な効果は観察されなかったものの、イノベーション集積地域に立地する大学においては、人材紹介企業や知識サービス提供者(弁理士など)との連携がスタートアップ創出を促進することが確認された。投資家(ベンチャーキャピタルなど)との連携については、全体として有意な効果は認められなかったが、東京以外の地域に立地する大学に限り、地域のイノベーション集積との間に補完的関係が認められた。なお、これらの効果に関して、技術分野(バイオテクノロジー、化学、エレクトロニクス、精密機器、機械)による顕著な差異は確認されなかった。

以上の結果は、大学による起業支援の効果が内部資源のみならず、地域のイノベーション環境との整合性によって影響されることを示唆している。スタートアップ創出に対して効果的な支援を実現するためには、大学の保有する研究能力に加え、地域の集積構造に応じた外部資源との連携戦略が重要である。

図1 理論枠組み
図1 理論枠組み