ノンテクニカルサマリー

暑さが学力格差に及ぼす影響の分析

執筆者 明坂 弥香(神戸大学)/重岡 仁(東京大学)
研究プロジェクト 子育て世代や子供をめぐる諸制度や外的環境要因の影響評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「子育て世代や子供をめぐる諸制度や外的環境要因の影響評価」プロジェクト

本研究では、授業中の暑さが小・中学生の学力格差に与える影響を分析する。学力の評価には、文部科学省が毎年4月に全国の小・中学生を対象として実施する全国学力・学習状況調査(2007—2019年)の得点を用いる。特に、同一学校内における成績上位層と下位層の生徒に対する影響の違いに着目する。

分析の結果、前年の夏に暑い日を多く経験した場合、翌春に受験する試験のスコアが平均して低下することが分かった。さらに、学校内の成績ランクによる影響の違いを調べたところ、相対的に学力の低い生徒への負の影響は、相対的に学力の高い生徒への影響に比べて約3倍大きいことが明らかになった。具体的には、授業期間中に最高気温が34℃を超える日が1日増えるごとに、成績上位10%の生徒の成績は0.09%標準偏差(SD)低下するのに対し、成績下位10%の生徒の成績は0.30% SDも低下していた。相対的に学力の低い生徒は、学力の高い生徒に比べて親の学歴や世帯所得が低い傾向にあり、本研究の結果は、暑さが社会経済階層間の学力格差を拡大させることを示唆している。

しかし、生徒たちが普段授業を受ける普通教室に空調設備を導入することで、暑さによる学力の低下および学力格差の拡大が大幅に抑えられる可能性が示された(図1)。空調がない学校では、最高気温が34℃を超える日が1日増えるごとに、成績が平均0.56%SD低下するが、空調設備のある学校では、この低下幅が平均0.15% SDにとどまる。つまり、暑さによる負の影響は、空調によって約73%(0.41% SD相当)緩和されると試算される。さらに、空調の設置は相対的に学力の低い生徒に対してより効果的であり、学力格差の拡大を抑える効果があると考えられる。

本研究は、気候変動が経済的不平等を拡大するメカニズムの一つとして、教育格差を介した影響について指摘した。また、学校インフラへの公的投資、特に空調設備の導入が、気候変動による暑さの影響を軽減し、社会経済階層間の学力格差の拡大を抑制する有効な手段となり得ることを示した。

図1:学校内成績ランク別 温度が試験のスコアに与える影響
(空調あり vs. 空調なし)
図1:学校内成績ランク別 温度が試験のスコアに与える影響
この図は、学校内における10、25、50、75、90パーセンタイルに該当するテストスコア(標準化済み、0.01刻み)を、試験の前年度における最高気温の日数に回帰し、その係数と95%信頼区間を報告している。基準となる気温のカテゴリーは18~22℃である。また、2018年の各自治体公立学校の一般教室における空調導入率をもとに、空調なし(パネルA、空調導入率0%)と空調あり(パネルB、空調導入率100%)の2つのグループに分けて分析を行った。