執筆者 | 川口 大司(ファカルティフェロー)/北尾 早霧(上席研究員(特任))/能勢 学(国際通貨基金) |
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研究プロジェクト | 家計の異質性、個人・家族とマクロ経済 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「家計の異質性、個人・家族とマクロ経済」プロジェクト
企業ネットワークの存在は、企業による新しい技術採用の意思決定にどのような影響を与えるのだろうか。また、企業経営者の高齢化は、技術適応力にどのような作用を及ぼすであろうか。
本研究では、COVID-19パンデミック期における日本のEコマース(EC)の普及に着目し、企業レベルの調査データを活用して取引先のEC採用が技術適応にどのように影響するかを分析した。分析の結果、ネットワーク外部性が採用に大きな影響を与え、さらに年齢の高い経営者が率いる企業ほどネットワーク効果による採用のスピードが低下することが明らかになった。
本研究では、東京商工リサーチ(TSR)と東京大学のプログラム評価研究教育センター(CREPE)による特別調査データを使用した。このデータセットには、企業の特性、経営者の年齢や学歴、企業取引情報が含まれており、コロナ危機以前の企業ネットワーク情報を活用して、取引先のEC採用が自社の採用決定に与える影響を推計した。分析の結果、取引先がECを採用すると、ネットワーク効果を通じて自社の採用を促す効果が生じることが明らかとなった。ネットワーク採用の弾力性は2020年末までの0.27から2021年末には0.37に上昇し、ピア効果が時間とともに強まることも示された。
さらに、そのネットワークによる採用の弾力性は経営者の年齢が高い企業においてはそうでない企業に比べて低く、経営者の年齢が平均より10歳年上の場合は弾力性が0.13-0.21低下することが判明した(注1)。企業規模、業種、経営者の学歴、企業の信用スコア等を考慮した分析においても、経営者の年齢と採用スピードの負の関係は一貫して観察された。
本研究は、経営者の高齢化が企業による技術変革への適応力を低下させる可能性があることを示唆している。さらに、ネットワーク外部性を考慮すると、一企業の遅延が技術普及の遅れを助長する可能性も考えられる。こうした人口動態的な課題への対応は今後の研究課題であるが、若手や技術に精通した経営者の登用、組織全体での迅速な対応力の向上などの取り組みが、技術革新の持続的な進展と経済の活性化において重要であると考えられる。

- 脚注
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- ^ Table 3を参照。表(2行目)においては、1歳単位の経営者の年齢変化による影響を示している。