執筆者 | 劉 洋(研究員) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
日本の住宅市場における外国人の入居拒否問題は、海外や国際人権機関等に批判されてきた(注1)。しかし実際には、それらの問題はほとんど賃貸住宅市場におけるもので、持ち家に関しては、日本に長期居住した外国人世帯の状況はまだ明らかになっていない。特に国際的な標準手法に基づく外国人と日本人の持ち家格差の分析が行われていないため、国際比較も難しい状況である。
持ち家の所有は、外国人の受入国での経済・社会統合に重要な役割を果たしていると多くの国の研究で示されてきた。そして、欧米では、移民の統合政策の重要指標の1つとして、移民の持ち家率について数多くの研究が行われてきた。ほとんどの研究で、移民の持ち家の確率がネイティブより低いことが示されている。しかし、欧米の結果は、必ずしも日本に適用できるわけではない。そこで本研究では、移民とネイティブの持ち家格差についての標準モデル(例:Borjas 2002)を利用し、2020年「国勢調査」調査票情報の全国の外国人全数と日本人10%無作為抽出サンプルと、首都圏における外国人と日本人の全数サンプルを用いて、学歴、年齢、雇用形態、管理職、世帯人数、こどもの年齢、居住地、勤務地をコントロールした上で、夫婦世帯(子供のいる夫婦世帯も含む)と、未婚の一人世帯を対象に外国人世帯の持ち家確率について考察した。
主な結果として、欧米の先行研究の結果(移民の持ち家の確率がネイティブより低い)とは正反対に、日本に長期居住した外国人の主要グループについて、持ち家確率がネイティブよりも有意に高いという結果が示された。具体的には、夫婦世帯の6割ほどを占める中国出身の世帯は、持ち家の確率が日本人よりも10パーセンテージ・ポイントほど高いことが明らかになった(表1の中国の推定値参照)。そのほかにも、未婚の一人世帯の男女の持ち家の確率が、中国出身者は日本人より男性が12.9パーセンテージ・ポイント、女性が8.3パーセンテージ・ポイント高いことも分かった。
この結果の背景に、外国人を日本人と平等に扱う住宅政策がある。一部の民間賃貸住宅で外国人を差別する事実はあるが、政府の住宅政策および住宅支援の機関は、日本人と同じような持ち家取得支援を、長期居住の外国人住民にも提供してきた (例えば、「住宅ローン減税」の支援策や住宅金融支援機構の全期間固定金利等)。このことは、国際機関などが日本の外国人政策について、評価すべき点だと考える。また、日本の深刻な人手不足および周辺途上国との賃金格差の急速な縮小のなか、外国人労働者の誘致政策は、既に一時的な出稼ぎより、日本での定住を視野に入れることに移行しつつある(例えば特定技能2号の対象拡大)ため、外国人を日本人と平等に扱う住宅政策は、外国人労働者の誘致にも寄与しているのではないかと考える。
注意すべき点として、まず、本研究の対象とした持ち家確率は、学歴、年齢、雇用形態、管理職、世帯人数、こどもの年齢、居住地、勤務地による影響を取り除いた結果であり、平均の持ち家率ではない。前述の中国出身者は、平均年齢が日本人より低いという要因等があるため、単純な平均持ち家率については日本人より低い。また、中国出身以外の外国人長期居住者については、持ち家の確率が日本人より有意に低い結果も示された(表1の中国以外の推定値参照)。彼らの人数は、夫婦世帯の場合、出身国別でそれぞれ中国出身世帯の数パーセント(韓国・朝鮮のみ中国の20%)しかないが、合計では全外国人長期居住者の4割ほどを占める。この低い持ち家確率の原因として、既に日本の先行研究や調査で明らかになった、外国人が労働市場で受けた差別(同じ人的資本で日本人より賃金が低い)や、金融市場で受けた差別(一部の民間金融機関が住宅ローンを提供する際に長期居住者の外国人に高い金利や厳しい条件を設けること等)の可能性がある。そのため、既に日本の多くの産業が外国人労働者への依存度が高くなった今日、外国人差別の是正も、足元にある重要な政策課題になるだろう。

- 脚注
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- ^ 例えば、米国国務省の人権報告書に、日本における外国人差別の問題が報告され、そのなかで一番目に挙げられたのはhousingにおける差別だった(US Department of States, 2023)。
- 参考文献
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- Borjas, G.J., 2002. Homeownership in the immigrant population. J. Urban Econ. 52, 448–476. https://doi.org/10.1016/S0094-1190(02)00529-6.
- US Department of States, 2023. Japan 2023 Human Rights Report.