ノンテクニカルサマリー

人工知能・ロボットのマクロ経済効果:サーベイに基づく概算

執筆者 森川 正之(特別上席研究員(特任))
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.趣旨

人工知能(AI)、ロボットなど自動化技術の経済効果への関心が高い。そうした中、執筆業務、プログラミングなど特定のタスクを対象に、AIの生産性への因果的な効果を計測した研究が現れている。しかし、それらの結果から経済全体への定量的な効果を推察するのは無理がある。Acemoglu (2024)は、AIが中期的な生産性に及ぼす効果をタスク・レベルの既存研究をベースに試算し、10年間の全要素生産性(TFP)上昇効果は累計で0.7%未満だとしている。しかし、試算の前提である自動化されるタスクの範囲やそのコスト節約効果には大きな不確実性があることを留保している。また、製造業における産業用ロボットの生産性や労働市場への影響について内外で多くの研究が行われているが、最近普及が進んでいるサービスロボットを対象とした研究例は乏しい。

そこで本研究では、2024年10月に行った労働者に対するサーベイにより、どのような労働者がどの程度人工知能(AI)やロボット―サービスロボットを含む―を仕事に利用しているのかを明らかにするとともに、これらの新しい汎用技術が日本経済全体の生産性をどの程度高めているのかを概算する。AIについては、2023年9月のサーベイに基づくMorikawa (2024)を、時系列での変化を含む形で発展させたものである。

極めてシンプルなアプローチだが、職業やタスクを限定せず日本の労働市場全体を代表するサンプルを用いているので、AIやロボットのマクロ経済効果を捉えることができる。生産性効果は労働者自身の主観的評価に依拠しているが、自動化技術を利用しなかった場合との比較を尋ねているので内生性の問題をバイパスできる。AIとサービスロボットを含むロボットの経済効果を比較することも新しい貢献である。

2.分析結果の概要

分析結果の要点は以下の通りである。①AIを仕事で利用している人は現時点では約8%にとどまるが、この1年間で約1.5倍に増加している。②高学歴、高賃金の労働者ほどAIを利用している(図1参照)。特定のタスクを対象としたいくつかの実験的な研究はAIの利用が同一のタスク内でのスキル格差を縮小することを示唆しているが、タスク横断的に見た労働市場全体としての格差は拡大する可能性があることを示唆している。③AIの利用が経済全体の労働生産性を0.5~0.6%高めていると概算される(図2参照)。無視できない大きさではあるが、現時点ではロボット利用の生産性効果(約2.0%)よりもかなり小さいと見られる。④今後仕事にAIを利用するようになると予想している人が約28%おり、AIのマクロ経済効果は拡大していくと考えられる。ただし、AIを最近利用するようになった人の生産性効果は相対的に小さいので、追加的な生産性効果が逓減していく可能性が示唆される。⑤サービスロボットを含めて職場でロボットが利用されていると回答した人が約9%おり、ロボットが職場の労働生産性を20%程度高めていると認識されている。サービスロボットを利用している職場は4.6%で産業用ロボット(6.4%)よりもやや少ないが、それが職場の生産性に及ぼす効果は産業用ロボットと大きく違わない。

図1. AIを仕事に利用している労働者の特性
図1.  AIを仕事に利用している労働者の特性
図2. AIの労働生産性への効果
図2.  AIの労働生産性への効果

3.含意

人工知能やサービスロボットの利用が急速に拡大しており、これらの自動化技術は生産性を高めるのに貢献している。これら新しい自動化技術の普及を円滑化することは経済全体にとって有益である。AIやロボットが利用される業務は今後も拡がっていくと予想され、また、AIやロボット自体の技術進歩もありうるので、定期的に利用実態や生産性効果を把握していくことが望ましい。

参照文献