このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「総合的EBPM研究」プロジェクト
本研究では、日本の商店街のような小規模な商業集積地区への集客イベント支援政策のような政策は有効であるかを検証する。衰退の一途をたどる商店街のような小規模な商業集積地区への再活性支援策は、日本のみで行われているわけではない。米国の衰退したダウンタウンなどの小規模な商業集積地区の再活性化を目的としたメインストリートプログラム(Main Street Program)などが行われている。このような小規模な商業集積地区への経済支援に効果があるのかは実証的な課題である。
2020年日本で商店街に対して行われた『GoTo商店街』政策は、計画期間の途中で一時中断されることを通じて、因果関係を検証する機会をもたらした。政策支援を受けることが計画されたにも関わらず中断により、(分析時点では)支援を受けていない地区と、中断前までに政策支援を受けた地区とが生じたためである。『GoTo商店街』政策は、新型コロナウイルス感染症 (Covid-19) パンデミックいわゆるコロナ禍における日本の商店街に対する商業活動支援のために日本政府が2020年10月から2020年12月にかけて行った経済支援政策である。これは商店街組合などの組織それぞれが、自身の商店街への集客につながる事業を提案・申請し、採択された場合、事業にかかった費用を事業終了後に精算という形で受け取るという支援政策であった。
我々はこの『GoTo商店街』政策が2020年12月28日から2022年10月にかけて全国一律的に中断されたことに注目する。全国一律的な中断によって、支援を受ける事業に採択された商店街は、申請事業が採択されたにもかかわらず事業を行えなかった商店街である対照群(以下ControlGroup対照群)、申請事業が採択され事業を部分的に行った処置群(以下Incompleted処置群)、申請事業が採択された上で事業を完遂させた処置群(以下Completed処置群)、という3つのグループへと外生的に分割された(図1参照)。我々は、政策実行前の2019年から政策中断中の2021年にかけてそれぞれの商店街の売上の変化を比較することによって、特定の商業地域への経済支援が与える影響を検証した。
我々は商店街それぞれの2019年から2021年にかけての売り上げの変化率に関するデータを令和3年度商店街実態調査から入手し、それぞれの処置群と対照群とを比較した。データの制約上、変化率のデータは階級別しか存在せず、その正確な値は観察できなかった。しかし、階級別の分布をみると対照群の売上の変化率は、処置群のそれよりも低い傾向が見て取れた。表1の結果によると。売上が30%以上減少した商店街の割合は、処置群よりも対照群のほうが大きい。我々はこの表から『GoTo商店街』政策の支援を受けた事業は、商店街の売上に貢献したか検証を行った。
階級別であったとしても、売上の変化率に関する情報が手に入ったことが、本研究の特色である。この情報をもとに、いわゆる差の差分析の枠組みでの検証が可能となった。この枠組みのもと、「政策の支援を受けた事業は商店街の売上に貢献した」という解釈に対し、いくつもの検証を行い、我々はその解釈が十分説得力があるものだとしている。そのなかでも特に政策実行以前の1997年から2014年にかけての売上の変化率が対照群と処置群の間で大きな違いがなかったという結果が得られたことを強調したい。このことは、政策実施期間をまたぐ2019年から2021年にかけての売上の変化率の違いが、『GoTo商店街』事業を実行できたか否かにより生じたという解釈に、より説得力を与える。
政策的示唆
売上について正の効果があると推定された一方で、商店街の振興に関する他の指標として考えられる商店街内の空き店舗や来街者数といった指標において商店街の振興をもたらしたという確たる証拠は見当たらなかった。これらの指標は売上と同様、回答者の記憶に基づくカテゴリーデータである。そのため今回の分析のみで、来街者や空き店舗率といった指標について、商店街にとって望ましい効果が政策には無いと言い切れない。商店街の空き店舗数と来街者数は商店街振興を目指す政策にとって重要な目標指標であり、これらの変数に関する分析を継続的に行うことが今後必要である。このような限界にも関わらず、今回の結果は『GoTo商店街』政策の後継となる『がんばろう!商店街』政策のような効果検証において適切な対照群を探しにくい商店街振興政策を考える際に、我々の結果は参照されるに値する資料であると考えている。