執筆者 | 森川 正之(特別上席研究員(特任)) |
---|---|
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1.趣旨
新型コロナの下、家計や企業などの経済主体にとって先行きの不確実性が著しく高まった。その後、2023年5月にはWHOが「国際的な公衆衛生上の緊急事態」の終了を表明し、日本でも感染症法上の位置づけが5類に移行した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻、中東における紛争など新たな不確実性ショックも生じている。
本研究は、新型コロナ下及びその後のマクロ経済及び賃金の先行き見通しとその不確実性を、2020~2023年にかけて日本人を対象に実施した独自のサーベイのミクロデータを用いて分析するものである(調査時点は2020年6月、2021年7月、2023年9月)。具体的には、2年後までの①マクロ経済(実質GDP)成長率及び②自分自身の賃金変化率の点予測値、それらの主観的90%信頼区間を尋ねた結果を使用し、後者を個人が直面した不確実性の指標として使用する。そして3時点間での平均値の変化を観察するとともに、個人特性と主観的不確実性の関係を分析する。
2.結果の要点
第一に、新型コロナ感染症の初期、マクロ経済の先行き見通しが大幅に悪化すると同時に、個人レベルの主観的不確実性が増大したことが改めて確認される(表1参照)。第二に、マクロ経済の先行き不確実性は年を追う毎に低下してきたが、自身の賃金の先行きの不確実性は2021年にいったん低下した後、2023年には再び高まった。第三に、マクロ経済、賃金の不確実性はいずれも観測可能な個人特性と関係を持っており、男性、50歳以上の高齢層、大学又は大学院卒業者は主観的不確実性が高い傾向がある(表2参照)。
3.物価の見通しと不確実性
2023年調査では、5年先までの消費者物価上昇率の予測値、その主観的不確実性を質問している。中期的な物価上昇率予測の平均値は+3.7%(年率換算+0.6%)と意外に低い数字だが、個人間での分散が非常に大きい。中高齢者、高学歴者は高めの物価上昇率を予測する傾向があり、また、予測の主観的不確実性も高い。
4.政策の不確実性
2023年調査では、いくつかの政策を対象に、それらの不確実性を調査した結果を示しており、論文の中では補論として扱っている。対象とした政策の中では、「政府財政の持続可能性」が最も不確実性が高く、次いで「社会保障制度」、「税制」が高かった(表3参照)。これら政策の不確実性は、予備的貯蓄動機に基づき家計の消費を抑制する効果を持つことを多くの研究が示している。個人の意思決定に影響する基幹的な制度の不確実性を低減することの重要性を示唆している。