ノンテクニカルサマリー

日本企業・労働者のAI利用と生産性

執筆者 森川 正之(所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.趣旨

人工知能(AI)の利用が急速に拡がる中、その経済成長や労働市場への効果についての関心が高い。しかし、AIの利用実態に関する統計データが乏しいことが実証研究の大きな障害となってきた。本稿は、企業及び就労者に対する独自のサーベイに基づき、日本におけるAIなど新しい自動化技術の利用実態、それらを利用する企業・労働者の特性、AIが生産性や雇用に与える効果についての見方を概観する。

本稿の特長は、①企業のAI利用の時系列での動向を示したこと、②AI、ビッグデータ、ロボットという3つの技術を比較し、技術による企業特性の違いを分析したこと、③労働者レベルのAI利用実態とその生産性効果を示したことである。

2.結果の概要

第一に、AI利用企業は急増しており(図1参照)、高学歴労働者シェアの高い企業ほどAIを利用する傾向がある(表1参照)。ロボット利用企業も増加しているが、労働者の学歴との関係は希薄であり、AIとロボットの労働市場への効果には大きな違いがあることを示唆している。第二に、AI利用企業は、生産性や平均賃金が高く、中期的な期待成長率も高い。第三に、AI利用企業は、それが自社の生産性や賃金を高める一方、雇用を減少させる可能性があると予想している。第四に、高学歴層ほどAIを利用している傾向があり(図2参照)、現時点においてAIと学歴で測ったスキルに補完性があることを示唆している。第五に、AIを利用している労働者は、平均20%程度業務の生産性が向上したと判断しており、潜在的にAIがかなり大きな生産性効果を持つ可能性を示唆している。

3.結論と含意

本研究の重要な示唆は、現時点においてAIが高学歴労働者と補完的なことである。この結果は、2015年の企業サーベイを用いた初期の研究であるMorikawa (2017)と同様である。AIの経済効果を享受するためには、労働者のスキル向上が必要なことを示唆している。ただし、生成AIの利用は急速に拡がっており、適用範囲の拡大や技術進歩に伴って状況が変化していく可能性がある。AIの重要性が高まる中でその効果・影響を明らかにすることは、エビデンスに基づく政策の企画・立案にとって不可欠であり、例えば大規模な政府統計の中でAI利用実態を網羅的に把握することを期待したい。

図1.AIなどを利用する企業の割合
図1.AIなどを利用する企業の割合
(注)3回の調査に全て回答したパネル企業の数字。
表1.AIなどを利用する企業の特性
表1.AIなどを利用する企業の特性
(注)AI、ビッグデータ、ロボットを利用している確率がどれだけ高いかを示す(各産業については、ベースとなる産業(ここでは卸売業)と比べて何%高いかを示す)。例えば、情報通信業の企業はAIを利用している確率が卸売業の企業よりも9.2%高い。また、大学院卒労働者シェアが1標準誤差(6.3%)高い企業は、1.2%(6.3%×19.2%)AIを利用する確率が高い。カッコ内はロバスト標準誤差。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
図2.個人特性とAIの仕事での利用
図2.個人特性とAIの仕事での利用
(注)2023年9月に実施した労働者サーベイ(N=13,150人)から作成。
参照文献
  • Morikawa, Masayuki (2017),“Firms’ Expectations about the Impact of AI and Robotics: Evidence from a Survey,” Economic Inquiry, Vol. 55, No. 2, pp. 1054-1063.