執筆者 | 髙木 誠司(コンサルティングフェロー) |
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研究プロジェクト | 持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築」プロジェクト
本論稿は、貿易投資の自由化を中心的な目標とする国際通商法システム、なかでも、その一部を成す自由貿易協定(FTA)が、昨今重要性を高めている持続可能な開発の推進という観点から見て、どのような意義を持っているかを分析したものである。
持続可能な開発を考える上で、2015年に国連で合意をされた、「持続可能な開発目標」(SDGs)は、その内容を具体的に記述した、重要な目標となっている。SDGsは、17の目標と169のターゲットをその内容としているが、その具体的な中身を、交渉経緯なども含めてきちんと理解をしている人はそれほど多くはない。そうでありながら、SDGsは、持続可能な開発に向けた目標として、大くくりに、そして、強く肯定的な印象を持って受け止められ、結果として、様々な有意義な取組を生み出すきっかけとなっている。
SDGsの17目標及び169ターゲット自体を見ると、貿易自由化、国際通商法システムやFTAに関する言及はかなり限定的である。しかしながら、持続可能な開発に関し、SDGsと一体となって交渉がなされた(注1)2030アジェンダ、(注2)アディスアベバ行動計画(AAAA)を見ると、貿易自由化などが持続可能な開発に向けて重要な役割を果たすものとしてしっかりと評価をされている。
そして、日本が比較的最近合意をした、(注3)CPTPP、(注4)日EU・EPA、(注5)RCEPの協定内容を詳細に見てみると、参考に記載の分野も含め、SDGsに貢献する条項が多数含まれていることがわかる。CPTPPや日EU・EPAは、環境、労働、透明性などの新しい分野で詳細な規定を有する一方、RCEPは、途上国配慮や協力といった分野でより詳細な規定を有している。FTAに含まれている、SDGsに貢献する規定は、総じて、法的拘束力が低く、協力を中心とした規定も多いが、今後の活用のされ方によっては大きな具体的な効果も期待できるものとなっている。
また、最近では、IPEFやDEPAのように、貿易自由化の要素を中心的な課題としては扱わない経済協定も交渉・合意されてきている。そういった経済協定を見ると、正面からSDGsへの貢献が導かれる環境協定もあるし、DEPAなどのように主目的はSDGsへの貢献とは別としても、内容分析をすると、SDGsに貢献する要素を多く含むものもある。
このように、持続可能な開発を進める上で、国際通商法システムやFTA等は、貿易投資自由化自体が一定の肯定的な貢献をするのみならず、個々の協定の一定の規律が、持続可能な開発に向けた貢献をする要素を含んでいる。もちろん、多様な要素を含む持続可能な開発を進める上では、持続可能な開発の推進を直接目的とする、様々なツールを積極的に活用することが必要と考えるが、国際通商法システムやFTA等といったツールも、それ以外のツールとうまく組み合わせながら、適切に活用してこそ、持続可能な開発がよりよく進んでいくのではないかと考えらえる。
- 脚注
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- ^ 2015年に合意をされた、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の略称。2030アジェンダの一部分としてSDGsが合意されている。
- ^ SDGsを達成するのに必要な開発資金に関する会合で2015年に合意された行動計画。
- ^ 「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」の略称。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)から米国が離脱したことから、残りのアジア太平洋に属する11か国で再交渉の上合意したFTA。
- ^ 「経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定」の略称。
- ^ 「地域的な包括的経済連携協定」の略称。日中韓豪NZ及びASEANが結んだFTA。