執筆者 | 渡辺 翔太(野村総合研究所) |
---|---|
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)」プロジェクト
DEPAは、デジタル貿易に特化した初の通商協定である。その創設国はすべて(CP)TPP加盟国でもあるが、TPPで高水準なルール形成を達成した後、なぜDEPAを創設したのか。創設国の意図を分析した結果、DEPA創設はWTOやTPPの補完を目的とし、デジタル経済の重要な要素について相互運用性や協力を確保し、ビジネス上の障害を取り除くことにある点が明らかになった。
DEPAはデジタル経済に必要な要素を既存協定よりも網羅的に示す点で、意義を有する。ただし、その多くは通商以外のフォーラムで取組みが進んでいる。この重畳的なルール形成の原因として、デジタル政策と通商政策の人的交流の無さをあげ得るかもしれない。
以上を踏まえ、DEPAのルール形成に向けた意義は具体的には次のとおりである。DEPAのルールのうち、既存のFTA等のアップデートに用いることができるもの、他のフォーラムで継続検討すべきもの、新規に議論すべきフォーラムを見定めるものに分解される。さらに、DEPAで未規定の事項もあるといえ、特にガバメントアクセスに関するルールはその一例といえる。
相互運用性確保によるビジネスの障壁除去を目指す点で、DEPAと日本の方向性は一致するが、こうした取り組みは既に進んでいるため、日本があえてDEPAに加盟する意義は乏しいとも思える。しかし、韓国はDEPAが多角的ルールに発展する期待があるとし、グローバルなルール形成をリードするとして加盟を表明した。中国も同様の意図を持っている可能性がある。また、2023年10月には米国の交渉姿勢が国内でのAIやBigTech規制などに向けた政策裁量の確保を理由に大きく変化し、ハイレベルなデジタル貿易ルール形成からの離脱を行った。
他方、日本は同月にEUとハイレベルなデータ関連ルールを規定する日EUEPAの再交渉に成功している。米国が導入を目指すAIやBigTech規制はEUを参照したものも多いため、日EUEPAの関連規定は米国も締結しうる条項の1つの形ということができる。日本とEUで米国を説得するとともに、米国の離脱したタイミングを狙った中国主導のルール形成を成功させないためにも、日本のコミットメントが重要になる。
こうした意義やルール形成の経路を考えると、日本がDEPAに加盟するというのも有力な選択肢の1つであるといえる。