執筆者 | Willem THORBECKE(上席研究員) |
---|---|
研究プロジェクト | Economic Shocks, the Japanese and World Economies, and Possible Policy Responses |
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「Economic Shocks, the Japanese and World Economies, and Possible Policy Responses」プロジェクト
石油は、台湾で最終消費に使用されるエネルギーの54%を提供している。台湾における最大のエネルギー消費主体は工業で、総エネルギーの34%を消費している。また、過去20年間、石油価格は高騰し、激しく変動してきた(図1を参照)。石油価格の変動は台湾の産業にどのような影響を与えるだろうか。
本稿では、石油価格が台湾における業種別株価にどのような影響を与えるかを調査することによってこの問題を考察する。Black(1987、pp. 113)は、「業種ごとの株価の動きは、生産高、利益、投資における業種ごとの変動を予測する上で有用である。ある業種の株価が上がると、多くの場合に、当該業種の売上高、収益、設備投資が増加する。」と述べている。
Fernald and Trehan(2005)は、石油価格の高騰が石油輸入国に対する税金のように作用することが分かったとしている。企業に対する所有権としての株式は純資産の主たる蓄積を表すものであるため、石油価格の高騰は石油輸入国の株価の下落を招くはずである(IMF、2014を参照)。
本稿では、Hamilton(2014)によって開発されたアプローチを用いて、原油価格の変動を、グローバル総需要が主導する部分と、石油供給その他の影響が主導する部分とに分ける。分析結果では、グローバル総需要の増加が主導する石油価格高騰は、株価総額だけでなく、鉄鋼、繊維、産業資材株の価格にも恩恵を与えることが示された。このタイプの石油価格高騰は、テクノロジーハードウェア、通信機器、半導体株の価格の下落も招く。石油供給ショックが主導する石油価格高騰は、半導体株に悪影響を与える。分析結果ではさらに、供給主導の石油価格高騰によって悪影響を受けるのは、半導体企業である台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)1社のみであることも示された。TSMCは、台湾の最大かつ最も重要な企業である。同社は世界最先端のチップを製造しているため、半導体企業と比較した場合だけでなく、全企業と比較しても、同社が必要とするエネルギー量は高い。例えば、2023年、TSMCは25,000ギガワット時のエネルギーを消費した。これは、ゼネラルモーターズの2023年の使用量の2倍以上である。
TSMCは、同社のサプライチェーン内での石油燃料使用量を削減するよう努めるべきである。これにより、石油価格ショックへの同社のエクスポージャーが減るだけでなく、顧客に対する同社の魅力が向上し、電子機器のカーボンフットプリントが削減される。Gupta et al. (2021)は、電子製品からの二酸化炭素排出の大部分は、機器内のチップの製造からのものであると報告している。TSMCは、同社のカーボンフットプリントの削減に重点的に取り組むべきである。同社はスコープ1、2、3の排出量を削減することによりこれを行える。スコープ1の排出量は、地球温暖化係数の高い処理ガスの割合を減らすことにより削減できる(マッキンゼー、2020)。スコープ2の排出量は、クリーンルーム、炉、その他の設備のエネルギー効率を高めるためのイノベーションを利用することにより削減できる。スコープ3の排出量は、チップを最終顧客に輸送する際に環境に優しい方法を採用することにより削減できる。
また、台湾は、再生可能エネルギーの選択肢を増やすべきである。西海岸沖の風力発電所を推進することができる。台湾はまた、原子力発電が安全かつ実現可能なものとなっているかどうかについて、慎重に検討すべきである。安全かつ実現可能である場合には、それに対する国民の納得を得られるようにすることができる。そしてアンモニアの輸入と水素発電の利用を促進することができる。また、北東アジアの近隣諸国との連携を探ることもできる。欧州、東南アジア、その他の地域は、エネルギーの大規模な越境貿易に参加している。地政学的制約により、北東アジア経済は参加していない。政治的制約を克服できる場合には、再生可能エネルギーへのより広範かつ信頼性の高いアクセスを得ることによる経済的利益が得られる可能性は高い。
台湾の最大かつ最も有名な企業であるTSMCは、石油価格高騰によって悪影響を受けた。また、同社のエネルギー消費量は、世界のあらゆる企業の中で最大である。TSMCは、石油価格高騰にかかる同社のエクスポージャーを減らし、消費者に対して魅力的であり続け、地球温暖化を防止するために、化石燃料への依存から再生可能エネルギーの採用への移行を迅速に行うべきである。

- 参考文献
-
- Black, F., 1987. Business Cycles and Equilibrium. New York: Basil Blackwell.
- Fernald, J., and B. Trehan. 2005. Why Hasn't the Jump in Oil Prices Led to a Recession? FRBSF Economic Letter 2005-31, November 18.
- Gupta, U., Y. Kim, S. Lee, J. Tse, H. Lee, G. Wei, D. Brooks, and C. Wu. 2021. Chasing Carbon: The Elusive Environmental Footprint of Computing. 2021 IEEE International Symposium on High-Performance Computer Architecture (HPCA).
Available at: https://ieeexplore.ieee.org/document/9407142 - Hamilton, J., 2014. Oil Prices as an Indicator of Global Economic Conditions. Web blog post. Econbrowser.com, 14 December.
- IMF. 2014. World Economic Outlook. Legacies, Clouds, Uncertainties. Washington: International Monetary Fund.
- McKinsey. 2020. Sustainability in semiconductor operations: Toward net-zero production.
Available at: https://www.mckinsey.com/industries/semiconductors/our-insights/sustainability-in-semiconductor-operations-toward-net-zero-production