ノンテクニカルサマリー

石油価格がインドネシア経済および韓国経済に与える影響:株式市場からの実証

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

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ドバイ原油価格は、2020年4月の1バレルあたり26ドルから2022年6月には112ドルに高騰し、2024年8月には80ドルまで下がった(図1を参照)。石油または石油製品は、インドネシアの総エネルギー消費の43%を占めており、韓国の総エネルギー消費の54%を占めている。こうした石油の多くは輸入されている。石油価格の高騰と変動は、インドネシア経済と韓国経済にどのような影響を与えるか。

石油価格が高騰すると、インドネシアや韓国などの純石油輸入国から石油輸出国への富の移転が高まる(Golub、1983)。株式は一国の純資産の主たる蓄積の一つであるため、石油価格が高騰することにより国の総株価が減少する可能性がある。

本稿では、ドバイ原油価格がインドネシアと韓国における総株価および業種別株価にどのような影響を与えるかを調査する。金融理論では、株価は将来キャッシュフローの期待現在価値と等しいとしている。したがって、石油価格が株式リターンにどのような影響を与えるかを調査することにより、石油価格が業種別の売上高、収益、投資にどのような影響を与えるかが浮かび上がるはずである。

本稿では、Hamilton(2014)のアプローチを用いて、石油価格の変動を世界総需要に起因する部分と石油供給量に起因する部分とに分ける。インドネシアと韓国の一部の業種では、価格高騰が世界需要の高まりに起因している場合、石油価格高騰期間中に株価が上昇することが分析結果で示された。インドネシアにおいては石炭、鉄鋼、製紙がこれに該当し、韓国においては鉄鋼、造船、商用車であった。分析結果では、一部の業種の場合、石油価格高騰の主導要因が総需要であるか供給サイドであるかにかかわらず、価格高騰により悪影響を受けることも示された。インドネシアにおいてはドラッグストア・食料品店、生活必需品、たばこ、電気通信サービスプロバイダーがこれに該当し、韓国においては空運業、ドラッグストア・食料品店、生活必需品、食品製造、産業用輸送、化粧品であった。

石油価格高騰によって一部の業種は恩恵を受け、一部の業種は悪影響を受けるという分析結果には、政策的含意があると言える。インドネシアでは、政府はガソリン価格に対して補助金を支給している。2023年、政府は、一般的な90オクタンガソリンであるPertaliteへの補助金として132兆4,400億ルピア(84億米ドル)を支出した。分析結果では、インドネシアの一部の業種は石油価格高騰によって恩恵を受けることが示された。すべてのガソリン利用者に対して一律的な補助金を支給することは、石油・ガソリン価格高騰時に経済主体の一部が利益を得るという事実を無視するものである。そのような支給を行うことは、富裕層世帯のエネルギー消費量が非富裕層世帯よりも高い傾向にあり、よって、燃料補助金の恩恵をより多く受けるという事実を無視するものでもある。補助金は、社会プログラムその他の重点課題への政府支出を締め出すこととなる。政治的な痛みを伴うものの、政府は燃料補助金を修正し、支給対象を燃料価格高騰に苦しむ貧困層の消費者その他の人々とすべきである。

分析結果では、インドネシアおよび特に韓国では、多くの業種が石油価格高騰によって悪影響を受けていることが示された。これは、石油消費量を減らすことが優先課題であることを浮き彫りにするものである。化石燃料を脱することは、気候変動との闘いにおいても不可欠である。一つの問題として、再生可能エネルギー源は、化石燃料と比べてより高価で、予測がより困難である可能性があるという点である。クリーンエネルギーは、多くの場合に断続的な日光、風その他の要素に依存している。韓国が北東アジアの近隣諸国と連携することができれば、これらの国々は共同で、より低価格かつ信頼性の高い再生可能エネルギー源を開発することができる。インドネシアは、太陽光パネル利用者が余剰エネルギーを市場価格で系統運営者に売り戻すことができるようにすることで、太陽光パネルの利用にインセンティブを与えられる。

内燃機関車の代わりに電気自動車(EV)の利用を促進することによっても、両国の石油依存度を下げることができる。インドネシアと韓国は両国とも、EV販売を促進するために補助金を支給している。充電施設数を増やし、これらの施設が正常に機能するようにすることは、消費者に補助金を支給するよりも費用対効果が高いことが研究で示されている。高速道路サービスエリアなどの移動拠点で充電インフラの質量ともに高めることも重要である。

石油価格は高騰し、激しく変動してきた。石油価格の高騰はインドネシアおよび韓国の一部の業種に悪影響を与える。激しい価格変動は、多くの業種を苦しめる。不安定な業種を保護し、またゼロ排出目標を達成するために、両国は、石油その他の化石燃料から持続可能なエネルギー源への移行に重点的に取り組むべきである。

図1:ドバイ原油価格
図1:ドバイ原油価格
出典:Federal Reserve Bank of St. Louis FRED database.
脚注
  • Golub, S. 1983. Oil Prices and Exchange Rates. The Economic Journal 93, 576–93.
  • Hamilton, J., 2014. Oil Prices as an Indicator of Global Economic Conditions. Web blog post. Econbrowser.com, 14 December.