執筆者 | 足立 大輔(研究員(特任)) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
本論文は、産業用ロボットが職業別に与える賃金の不平等への影響を検討している。近年、産業用ロボットの導入が急速に進んでおり、特に製造や輸送の職業に従事する労働者に対する影響が顕著である。本研究では、日本から輸入されたロボットの価格データを職業別のタスク情報と照合し、日本から輸入されるロボットの導入コストが低下した影響(Japan Robot Shock, JRS)が職業ごとに異なることを示している。
論文の主要な発見の一つは、ロボットのコストが10%減少すると、米国の製造業および輸送業の職業における賃金が1.2%減少するということだ。これは、これらの職業がロボットと強く代替関係にあることを示している。特に、製造業の職業ではロボットと労働者の代替弾力性が他の一般的な資本財よりも高く、ロボットの導入が賃金の不平等に大きな影響を与えていることが明らかになった。
多くの国で、ロボットを国内で生産するよりも輸入している。一方で、日本の輸入比率は低く、このことはロボット生産における日本の比較優位性を浮き彫りにしている。一方、中国のサンプル期間中の緩やかな国内生産の増加は注目に値する。また、2001年から2005年にかけて、世界のロボット市場の半分をEUが、3分の1を日本が占め、残りの20%を米国と韓国を中心とするその他の国が占めていた。
また、現代的なロボットシステムの導入は、単にハードウェアを購入するだけではなく、カスタマイズされた統合や設定、最新のチューニング、維持管理が必要である。データにはハードウェアの価格のみが含まれているが、モデル内で統合コストについても考慮した。
本研究では、産業ごとの異質性を明示的に考慮していないが、職業ごとの豊富な異質性を通じて労働者への異質な影響を捉えている。特に、各職業で過去に労働者が行なっていたが、ロボットに代替されたタスクのシェアの変化を、自動化ショックとして概念的に捉えている。一方で、産業ごとに異なるロボット化が競争優位性に与える影響は、ロボットによる生産性向上や産業間の投入・産出リンクを通じて異なることが知られている。これに対応するために、本研究の定量モデルでは、生産関数に投入・産出リンクを導入している。
さらに、JRSの測定には、日本以外の国から米国に持ち込まれたロボットの価格ショックが含まれていない点に注意が必要である。他国で生産されたロボットについては価格に関する高品質のデータがないため、日本からのロボットショックのみを使用しており、他国からのロボットの価格ショックは暗黙的に推定された自動化ショックに含まれている。
図は、1990年の米国での賃金十分位点ごとに集計された推定自動化ショックを示している。この図から、自動化ショックが賃金分布の中間層により深刻な影響を与えていることが分かる。これに対して、JRSが賃金分布の変動に与える影響はほとんどない。これらの発見は、1990年代および2000年代の賃金分布の変動が主に自動化ショックによるものであることを示唆している。
また、図の右側のパネルは、ロボット化ショックおよび推定モデルに基づく定常状態の賃金成長率を示している。ロボット化が賃金分布の中間層に与える影響が大きく、ロボットと労働者の強い代替関係により、賃金成長率が中間層でよりマイナスであることが確認された。具体的には、1990年と2007年の90-50賃金比率(90パーセンタイルと50パーセンタイルの賃金比率)はそれぞれ1.588と1.668であるのに対し、1990年のデータとモデルの第一近似解に基づく推定値は1.594である。これらの数字は、本論文で捉えたロボット化ショックが90-50比率の6.4%の増加を説明できることを示し、ロボットの導入が賃金の不平等に与える影響について、政策立案者にとって重要な示唆を提供している。
(a) 推定された自動化ショック | (b) ロボットの賃金への影響 |
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注:左のパネルは、論文内式(12)から導かれる職業別の自動化ショックを示している。このショックは、ベースライン年である1990年において、初期雇用水準によって重み付けされた賃金分布十分位点ごとに集約されている。右のパネルは、論文内式(34)で与えられる推定モデルの一次近似定常解によって予測される、各賃金十分位点における年率化された職業別賃金成長率を示している。 |