ノンテクニカルサマリー

家族従業員と契約履行、品質の関係:ラオスの織機産業におけるエビデンス

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業生産性向上のための政策に関する考察:ラオス織機産業の事例と日本企業の海外視察団に関する初期的分析」プロジェクト

先進国に比べ、開発途上国の小規模企業では家族従業員の比率が高いことが知られている。その理由の一つとして考えられるのは、経営者が労働者とのエージェンシー問題に悩まされる状況である。エージェンシー問題とは、情報が不完全な状況において例えば、労働者が生産に欠かせない重要な投入物を流用する、一生懸命働かないために不良品を生み出してしまうなどのことである。法制度が完備されていない発展途上国ではこのような問題が顕著に存在する場合が多く、経営者と従業員の血縁関係が高品質な製品を生産するための手段として機能する可能性がある。

本稿では、ラオスで独自に収集した手織り物産業の事業者に関する詳細なマイクロデータを使用し、家族労働力(経営者の親戚のうち事業に従事できる者の人数)が事業パフォーマンスに与える効果を分析した。家族労働力が事業パフォーマンスに与える因果効果を分析するため、経営者の親戚の性別構成に起因する家族労働力の外生的変動を利用する。具体的には、伝統的に該当産業に従事するためのスキルを持つのはほとんど女性であり、なおかつ出生児の性別が外生的に決定されていることを利用し、親族の女性比率の高い経営者(家族労働力が多い経営者)とそれが低い経営者(家族労働力が少ない経営者)を比べる。

分析結果として、家族労働力が事業内の家族労働者の割合、さらに労働生産性、製品付加価値、製品価格に正の影響を与えることが示された。その要因の一つとして、より多くの家族労働者を雇える場合には、家族労働者と経営者の間の強い信頼関係を活用することができ、経営者自らがデザインした高価格の製品を生産できるようになるという可能性がある。フィールド実験に基づいた分析結果から、こうした仮説と整合的なエビデンスも得られた。

図は、経営者の親族のうちの女性比率を横軸に取り、縦軸に労働生産性(Log Value added per worker)と製品価格(Log Average product price)の対数をとり、横軸のビンごとにプロットしたもの。横軸を観測数がほぼ等しくなるような20のビン(グループ)に分割し、それぞれのビンについて平均をプロットしている。親族の人数、経営者の年齢、年齢の2乗、教育水準、調査年の固定効果の影響を取り除いた後の残渣をプロットしている。いずれの図においても、強い正の相関関係がみられており、女性比率の外生性を考慮すれば、因果効果としてこうした関係があることも示唆される。

以上の結果から、ラオスの機織り産業の事例では、経営者と従業員の血縁関係に基づいた信頼関係が高品質な製品を生産するために重要であることがわかった。しかしこのことは同時に、このような事業では、血縁関係のない外部労働者を雇い事業を拡大する際に問題が生じることを示唆する。そのため政策としては、経営者と従業員の間のエージェンシー問題を緩和させるための法制度やサポートを充実させることが望ましい。