執筆者 | 菊池 信之介(MIT) |
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研究プロジェクト | マクロ経済と自動化 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「マクロ経済と自動化」プロジェクト
近年、米国をはじめとした先進国において、市場の集中度の上昇が時系列トレンドとして観察され、競争環境の変化に関する議論が深まっている。集中度の上昇は、市場環境をより非競争的に変化させたり、労働分配率を低下させたりという副作用を伴うとの議論もある。一方、我が国では、経済停滞の原因として、同業種内の過当競争が存在することが政策議論の俎上に上がることもある(茂木 2013)。
そこで、本研究は、複数の政府統計データを用いながら、集中度指標の時系列データを作成し、我が国の市場集中度のトレンドを概観する。特に、HHI(ハーフィンダール指数)とCR4(上位4社シェア)を用いて、1980年以降の日本における製品市場ならびに労働市場における集中度を計算する。使用するデータは、経済産業省企業活動基本調査、工業統計、経済センサス、TSRデータである。
本稿の主な結果は以下の通りである。第一に、産業分類で定義された国内製品市場の集中度は、対象とする産業、使用するデータ、集中度の測定方法にかかわらず、1990年代半ば以降、上昇していることが分かった。これは、米国を含む他の先進国でのトレンドと同様の結果である。産業間比較によれば、集中度の高い産業ほど研究開発費の対売上比率が高いことが分かったほか、集中度の上昇は、簡易的に推定されたマークアップの上昇とは相関していないことが分かった。
第二に、商品分類で定義された国内製品市場における集中度もまた、過去40年間で上昇していることが分かった。図1は、製造業を対象に6桁商品分類におけるCR4(上位4事業所出荷額シェア)を示したものである。過去40年間で集中度の増加が観察されるが、その増加は特に1998年から2006年にかけて顕著であり、この8年間に32%から40%に上昇している。この上昇パターンは、HHIを用いたり、より粗い商品分類を用いたりしても、同様に観察される。
第三に、通勤圏、あるいは通勤圏と産業のペアで定義された地域市場における集中度も1990年代後半から上昇していることが分かった。この結果は、地域市場における集中度が近年低下しているという米国の結果とは対照的である。地域市場における集中度の上昇は、事業所数の減少と相関しており、大都市以外の地域において特に集中度の上昇が観察される。
上記の結果から分かったことは、製品市場においても労働市場においても集中度は上昇しており、少なくとも、過当競争の度合いが近年高まっているということは観察されないということである。特に、労働市場における集中度の上昇は、高い労働市場の集中度が低賃金につながっているのではないかという議論も踏まえれば、1990年代後半以降の賃金停滞に関連がある可能性もあろう。集中度上昇が地方に集中していることも考えれば、地方と都市の賃金格差に関連付けうる。ゆえに、国家戦略的な、外資系企業の工場誘致による、地方の寡占的労働市場においての競争激化と賃金上昇は、集中度が高まっている近年において、より重要なモデルケースとなる可能性がある。
- 参考資料
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- 茂木敏充(2013)「日本経済の再生に向けた新陳代謝の促進と経営資源の最大活用」第4回産業競争力会議 資料3
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/siryou3.pdf
- 茂木敏充(2013)「日本経済の再生に向けた新陳代謝の促進と経営資源の最大活用」第4回産業競争力会議 資料3