執筆者 | 大録 誠広(リクルート) |
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研究プロジェクト | イノベーション、知識創造とマクロ経済 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーション、知識創造とマクロ経済」プロジェクト
科学と産業の結びつきは近年ますます強くなっている。
経済成長理論から考えられるその理由の一つは、イノベーションの枯渇であろう。先行研究によれば、研究開発に従事する人の数は世界で増え続けているが、生産性の伸びは鈍化している。これが示唆するのは、イノベーションの源となる知識は既存のストックが増えれば増えるほど新しい知識を生み出すことが難しくなる性質を持つということである。したがって、イノベーションに行き詰まった企業は、新たな知識を探して、企業の境界を越えて外部の学問的な知識を探索する。レヴィンサールらは組織学習の観点から「組織が新規の外部情報の価値を認識し、それを吸収・同化し、商業的な目的に活用する能力」を「吸収能力」と名付け、組織の中の個人の多様性や学びの重要性を強調した。
本研究は、このような問題意識に基づき、論文・特許間の引用ネットワーク上の指標と特許を保有する企業の会計指標の間の関係を明らかにするものである。論文の構成は以下のようになっている。第2節では産学間の関係の仮説について述べる。第3節ではデータと変数の構築について説明する。第4節では実証分析を行い、3つの主要なトピックに関する政策的含意を論じる。第5節では結論を述べ、今後の拡張について説明する。
データとしては、2011年以前に米国特許商標庁に出願・認可された特許を使用し、それらの特許が引用する論文と、それらの特許を保有する企業の会計情報を含む包括的なデータベースを構築した。
実証分析の結果は以下の3点に集約される。第一に、高収益(高い粗利率)の企業の方が、そうでない企業よりも論文を引用する頻度が高かった。第二に、論文を引用している特許は、そうでない特許に比べてより多くの後発特許に引用されていた。第三に、論文を引用する特許は、そうでない特許に比べてより広い技術分野の特許に引用されていた。これらの結果は、学問的知識を取り入れることが特許の価値を高め、より広い範囲での活用を可能にし、企業の収益性を高めることを示唆している。
したがって、タイトルの「企業は学問の進展を活用できているか?」という問いに対しては、米国に関して言えば、収益性の高い企業は活用できている様に見える、と答えられるであろう。科学技術政策と産業政策における含意としては、収益性の低い企業が人的・物的資源の不足のために学術的知見にアクセスできないのであれば、公的支援を提供すること等が考えられる。日本についての分析は将来的な課題である。