ノンテクニカルサマリー

規制する権利と日本の主要な国際投資協定

執筆者 福永 有夏(早稲田大学)
研究プロジェクト 持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築」プロジェクト

日本はこれまで、日本の投資家の対外投資を保護し促進する目的で、積極的に国際投資協定(IIAs)(二国間投資条約(BIT)及び投資章を含む経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA))を締結してきた。

2016年5月に総務省・法務省・外務省・財務省・農林水産省・経済産業省・国土交通省が発表した「投資関連協定の締結促進等投資環境整備に向けたアクションプラン」では、「投資家やその投資財産の保護、規制の透明性向上、機会の拡大等について規定する」IIAsを100の国・地域を対象に署名・発効することが2020年までの目標として掲げられた。同アクションプランはまた、IIAsの交渉において、「投資市場への新規参入段階から無差別待遇を要求する「自由化型」の協定を念頭に、投資家保護等の分野でISDS(投資家対国の紛争解決)条項の挿入も含め高いレベルの質を確保することを不断に追求する」としていた。

2021年3月に公表されたアクションプランの「成果の検証と今後の方針」によれば、目標は達成されなかったものの、アクションプラン策定以降20のIIAs(45の国・地域)が新たに発効済み又は署名済みとなり、また、16のIIAsについて新規交渉が開始された。仮に交渉中のIIAsもすべて発効すれば、最終的には計 94 の国・地域がカバーされることになる。

日本のIIA政策は、日本の産業界によっても強く支持されている。たとえば経団連は、2019年5月の「投資関連協定に関する提言」のなかで、IIAsは「高水準の内容を目指すべきで」あり、挿入すべき具体的な項目として、公正衡平待遇義務やISDSを挙げている。

しかし近年、気候変動問題の緊急性が高まるとともに国家安全保障が経済政策及び外交の不可欠な要素となる中で、IIAsは、投資家の利益を保護するのみならず、気候変動や安全保障に関する投資受入国の規制権限(right to regulate)を適切に尊重しているかも問われるようになっている。対日投資額が増加しつつある中で、日本としても、日本企業の対外投資を保護及び促進するという観点のみならず、投資受入国として規制権限を確保するという観点からIIA政策を見直すべき時が来ている。

本DPは、日本の主要なIIAs(日中韓投資協定(JCKIA)、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP(いわゆるTPP11))、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)、日欧経済連携協定(JEEPA))が気候変動及び安全保障に関する日本の規制権限を適切に尊重しているかを分析した。

それによれば、たとえばCPTPPは、投資保護水準の明確化などにより、投資家の利益と投資受入国の利益のバランスを一定程度実現していると評価できる。またRCEPにおいては、投資保護水準の明確化が行われるとともに、現時点ではISDSが挿入されていない。JEEPAには、投資保護規定とISDSの双方が含まれていない。RCEPやJEEPAでISDSが挿入されなかったのは、RCEP締約国やEUにおいてISDSに対する批判が高まるとともに、投資受入国の規制権限を確保する必要が強く認識されているためと推測される。ISDSの欠如は、投資家の利益保護という観点からは好ましくないが、投資受入国の規制権限の確保という観点からは肯定的に評価される。

本DPが検討対象としたIIAsを見る限り、日本政府や日本の産業界が高い水準のIIAsを求めながらも、実際には投資受入国の規制権限にも配慮したIIAsが締結されている。ただこれはあくまで交渉の結果そうなったのであり、規制権限とのバランスの取れたIIAsの交渉及び締結という点で日本は受け身に立っていると言わざるを得ない。

IIAsの交渉及び締結においてリーダーシップをとるためには、投資家の利益と投資受入国の規制権限とのバランスも踏まえた新たなIIA戦略を策定すべきであろう。