執筆者 | 石井 由梨佳(防衛大学校) |
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研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)」プロジェクト
資金洗浄・反テロ規制(AML/CFT規制)のためには、顧客の身元情報や犯罪リスク情報を金融機関等が共有することが効果的である。そこで、金融活動作業部会(FATF)は民間企業間で関連情報の共有を行うことを勧告している。なお、FATFは1989年に設立された政府間会合であり、AML/CFT規制と大量破壊兵器の拡散に寄与する資金の供与に関する国際基準を策定している。近年では、情報をプールしておき人工知能等で疑わしい取引を検知したりすることを試みる国や事業者もあり、FATFもそのような技術の利用を勧奨している。
もっとも、そのような共有を事業者に義務付けることは、各国のプライバシーをはじめとした人権規範やデータ保護・プライバシー(DPP)法制と抵触しうる。本稿ではこの問題についての国際法上の規則が確立していないことを踏まえて、主に米国、欧州連合、英国、中国が、AML/CFT規制とDPP法制をどのように調整しているのかを調査し、事業者が遵守しなくてはならないDPP法制上の義務の幅に相違があることを示した。
日本でも金融機関のデータの利活用が進められている。その流れにおいて、グループ内の情報共有や機関間の取引モニタリング等の共同化が進められている。形式的には個人情報保護法をはじめとした関連法との抵触はないが、情報共有の射程が広がれば、潜在的には個人の基本権保障と緊張関係を有しうる。日本の政策を考える上でも、これら主要国・地域の実践が参考になる。