ノンテクニカルサマリー

中小企業の金融機関借入の決定要因とその帰結:コロナショックは特別か?

執筆者 鶴田 大輔(日本大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本論文は、大規模な経済ショック時にどのような中小企業が金融機関からより借入を行うかを、2008年以降の世界金融危機(GFC)、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大によるショック(コロナショック)に注目して分析した。2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大により、多くの中小企業の売上高は急減し、キャッシュフローの減少に伴う流動性不足が生じた。これらの問題を軽減するために、日本のみならず多くの国の政府は、政府系金融機関による貸出や、公的信用保証制度などの金融支援プログラムを拡充した。これらのプログラムを利用することで、中小企業は流動性不足を緩和するために金融機関から簡単に借入できるようになった。しかし、中小企業は公的な金融支援プログラムを利用することで、信用リスクが高い企業や成長性が低い企業も、金融機関から容易に借入をできるようになった可能性がある。コロナショックに加え、中小企業は1998年の金融危機及びその後の金融機関による不良債権処理や2008年のGFCなどの経済危機を経験することが多い。コロナショック以前の大規模なショックの際にも、政府は中小企業に対して金融支援を拡大する傾向にあった。

この論文では、GFCおよびコロナショックといった過去のマクロショックの際に、どのような中小企業が金融機関からの借入を増やしたのかを明らかにした。この問題を分析するために、日本の過去20 年間にわたる1,000万件を超える企業レベルのパネルデータを用いて、それぞれのショックの違いや、ショックと平常時の違いについて比較した。このような分析を通じて、本論文はショック時や平常時において、資金配分がどのくらい効率的であったのかを明らかにした。

これまで多くの研究(例えば、Hoshi, et al. (2023)、Honda et al. (2023)など)が、コロナショック時の中小企業の借入行動について、政府の金融支援プログラムなどに注目して分析を行っている。しかしながら、過去のショック時や平常時と比べて、コロナショック時の中小企業の借入行動がどのように異なるかはあまり明らかになっていない。本論文は過去のショック時や平常時と比較することで、コロナショックにおける中小企業の借入行動の特徴を明らかにする点において、独自性があるといえる。

本論文の分析では、借入金比率を被説明変数、前年度のキャッシュフロー比率、ゾンビ企業ダミー(Fukuda and Nakamura(2011)による基準)、負債比率、売上高変化率をメインの説明変数とし、固定効果モデルにより分析した。このモデルは各企業間の観察できない異質性を固定効果(企業ダミー)により除去したモデルであり、注目している変数の効果をより精緻に推定することが可能になる。各年の係数を推定するために、メインの説明変数と各年のダミーの交差項(メインの説明変数×各年ダミー)の係数を推定した。これにより、各年におけるメインの説明変数の係数を一つの推定式により推定することができる。図1はキャッシュフロー比率の係数を年別に示したものである。グラフの値が低いほど、キャッシュフローが減少した企業がより借入を行っていることを意味する。分析の結果、2000年代前半には、キャッシュフロー比率が上昇している企業がより借入を行っていた。しかし、この傾向はGFC前に徐々に弱くなり、2008年以降のGFC時にはキャッシュフロー比率が下落している企業がより借入を行っていた。その後、キャッシュフロー比率の係数の値は横ばいであったものの、コロナショック時である2020年及び2021年に大きく低下している。この結果から、ショック時にキャッシュフローが減少した企業がより多く借入を行っている傾向が顕著であり、この傾向はコロナショックにより強いといえる。

同様の分析をゾンビ企業ダミーについて行った結果が図2である。ゾンビ企業ダミーの係数の値が大きければ、ゾンビ企業がより借入を増やす傾向にあるといえる。ゾンビ企業ダミーの係数は2000年代前半にマイナスであったものの、2008年のGFC時にプラスに転じ、コロナショック時にプラスの値がさらに上昇している。この結果は、GFC時にゾンビ企業が借入を増加させる傾向にあり、コロナショック時にはその傾向がさらに強まったことを意味する。図3は負債比率に関する分析結果であるが、一般的にリスクが高い高負債企業がGFC時に借入をより増やし、コロナショック時にその傾向がさらに強まった可能性がある。

各年の売上高成長率の係数を示したのが図4である。係数の値が大きければ、売上高が伸びている企業がより借入を行っていることを意味する。係数は2000年代前半においてプラスであり、売上高が伸びている企業がより借入を行っていた。しかし、係数は2008年のGFC時にマイナスに転じ、2020年以降のコロナショック時には大幅にマイナスとなっている。つまり、GFC後には売上高変化率がより低い停滞企業が借入を多く行う傾向があった。この傾向はコロナショック後に顕著であった。

本サマリーには示していないが、本論文の分析によるとは、キャッシュフロー比率が低い企業、ゾンビ企業、高負債企業、低成長企業の事後的な収益性は低い傾向にあり、特にこの傾向はコロナショックにおいて顕著であった。これらの結果から、コロナショック時には過去のショック時や平常時と比較して、より脆弱な中小企業が借入を行っていたと解釈できる。

本論文における政策的含意は以下の通りである。第一に、ショック時の金融支援についてである。コロナショック時には様々な金融支援が実施され、キャッシュフローが大幅に減少した企業の資金繰りを支えたことは中小企業のデフォルトを防止したと考えられる。一方、脆弱な企業がより多くの借入を行いやすい環境にあり、それらの企業の収益性の改善が見られないことから、過剰な債務であった可能性がある。今後のショック時にはこの両面を踏まえて制度設計すべきであろう。第二にショック後の金融支援である。2023年6月からいわゆるゼロゼロ融資の利払いが始まるなど、中小企業の借入に対するコストが徐々に顕在化する。そのため、経営支援が必要な中小企業がより多く発生すると考えられる。これらの企業に対する経営支援については、円滑な退出も含めた支援が必要であると考えられる。

図1:推定されたキャッシュフロー比率の係数
図1:推定されたキャッシュフロー比率の係数
図2:推定されたゾンビ企業ダミーの係数
図2:推定されたゾンビ企業ダミーの係数
図3:推定された負債比率の係数
図3:推定された負債比率の係数
図4:推定された売上高変化率の係数
図4:推定された売上高変化率の係数
参考文献
  • Fukuda, S. and Nakamura, J., 2011. Why did ‘zombie’ firms recover in Japan? The World Economy 34 (7), 1124–1137.
  • Honda, T., Hosono, K., Miyakawa, D., Ono, A., and Uesugi, I., 2023. Determinants and effects of the use of COVID-19 business support programs in Japan. Journal of the Japanese and International Economies 67, 101239.
  • Hoshi, T., Kawaguchi, D., and Ueda, K., 2023. Zombies, again? The COVID-19 business support programs in Japan. Journal of Banking & Finance 147, 106421.