ノンテクニカルサマリー

生産性と労働移動

執筆者 吉川 洋(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 経済主体の異質性と日本経済の持続可能性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「経済主体の異質性と日本経済の持続可能性」プロジェクト

日本の経済社会は、1990年代初頭にバブルが崩壊して以来長く閉塞感に覆われてきた。日本経済の活性化のためには、リスキリングを通して生産性の高い産業/企業へ労働者が移動して、経済全体の生産性を高める必要がある。内閣府の「経済財政運営と改革の基本方針2023」でも、このような議論がなされている。本論文では、過去25年間の生産性と労働のセクター間移動に関する実証研究を検討する。

わが国では、介護など労働の移動先となるセクターにおいて生産性の上昇率が低いという問題がある。労働生産性については、供給面のみならず、需要面についても考えなければならない。需要を考慮に入れなければ、コロナ禍の下(2020-21)での宿泊飲食業での労働生産性の急落は理解できない(図参照)。生産性の上昇が十分でない根本的な原因は、労働者のスキル不足ではなく、民間企業・政府のリスクテイキング、企業家精神(entrepreneurship)が十分でないところにある。

図 労働生産性の変化と就業者数シェアの関係