ノンテクニカルサマリー

リース資産投資と設備投資:リース業の技術的特性に関する実証的検討

執筆者 宮川 大介(早稲田大学)/矢澤 広崇(三井住友ファイナンス&リース株式会社)/柳岡 優希(株式会社東京商工リサーチ)/雪本 真治(三井住友ファイナンス&リース株式会社)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

企業が生産設備などの有形資本を利用するためのチャネルとして、企業自身が設備を取得する「有形固定資産投資」とリース契約を通じて設備を使用する「リース資産投資」が存在する。本研究では、有形固定資産投資とリース資産投資の設備投資機会に対する感応度を比較することで、リース業の技術的な特徴を検討した。

有形固定資産投資とリース資産投資では、投資資金の調達方法に差異がある。有形固定資産投資では、一般に設備購入時に設備購入代金を一括で支払う必要があることから、自己資金に加えて、株式・社債の発行や銀行借入等の外部から資金を調達する。リース資産投資では、設備の購入は設備の貸手が行い、借手企業は、毎月、定額のリース料を貸手に支払うことで、設備を使用することができ、設備購入代金を一括で支払う必要がない。こうした資金調達方法の差異から、株式・社債の発行や銀行借入等から資金調達を行うことが困難な企業では、リースの有するファイナンス機能に魅力を感じる可能性があるとされてきた。

ここで生じる自然な疑問は、自己資金や銀行借入等を用いて資金調達を行った上で設備投資を行う場合と、リース契約を通じて資金調達と有形固定資産へのアクセスを同時に実現することの間にどのような差異が生じうるのだろうかという点である。

本研究ではリース業における設備の再販売能力(re-salability)をその技術的特徴として取り上げた仮説を検証した。銀行を中心とする伝統的な金融機関では、借手企業の倒産に伴って担保とした設備を回収した際、債権回収の程度が中古市場の発達度合いに大きく依存することが想定される。ここで、リース会社が借手企業倒産時やリース期間終了時にリース設備を回収し、中古市場に加えて、独自の販路やノウハウによって設備を販売することで、リースが担保付き融資と比して高い与信能力を示す可能性がある。多くの既存研究では、利用可能なデータに係る制約から、リース資産投資を明示的に扱うことが十分に出来ていないが、本研究では、信用調査会社である東京商工リサーチ(TSR)の保有する本邦企業レベルの大規模パネルデータを利用することで、このギャップを埋めている。

分析手法としては、設備投資研究において一般的に用いられている拡張q-theory(Asker et al. 2015等)の分析枠組みに従って、リース資産投資と有形固定資産投資の設備投資機会への感応度を比較した。具体的には、まず、業種別中古品取得比率を中古市場の発達度合いの代理指標として用いることで、設備の高い再販売能力が要求される場合においてリース資産投資がより利用されているか否かを確認した。次に、取引銀行の資金供給に係るショックを企業の資金需要要因を制御した上で計測したAmiti and Weinstein (2018)の手法を用いて金融制約の代理指標を構築した上で、リース業の有する設備の再販能力の高さが、相対的に強い資金制約に直面している企業においてより顕著に確認されるか否かを検討した。

下図は、分析結果から得られたリース資産投資と有形固定資産投資それぞれの設備投資機会への感応度を示したものである。左図は、有形資本の中古市場が相対的に未発達な業種において、設備投資機会の変化に対してリース資産投資がより感応的に用いられていることを示している。右図は、中古市場が相対的に未発達な業種において、より強い金融制約に直面していると考えられる企業が、設備投資機会の変化に対してリース資産投資をより感応的に用いていることを示している。

設備投資機会の感応度に関する推定結果
(左図:中古市場の発達度合いによる差、右図:金融制約による差)
[ 図を拡大 ]
図:設備投資機会の感応度に関する推定結果
(注1)左図の数値は、論文中の表5(1)(3)列の結果を採用している。リース資産投資において、中古市場が未発達な業種群の方が発達している業種群よりも設備投資機会への感応度が有意に高い。
(注2)右図の数値は、論文中の表8(1)(3)列の結果を採用している。中古市場の未発達な業種群におけるリース資産投資において、金融制約的な企業の方が非金融制約的な企業よりも設備投資機会への感応度が有意に高い。

これら実証分析の結果は、中古市場での再販を含む有形資本の管理がリース業の重要な技術的特徴であること、また、こうした技術的特徴を背景として、金融制約に直面している企業にとってリース資産投資が重要な有形資本の利用チャネルとして機能していることを示唆している。

1990年代以降、日本では有形資本投資が趨勢的に低下してきた。こうした傾向は2010年代に僅かに反転の兆しを見せているものの、引き続き持続的な成長に向けた資本蓄積の重要性は高い。本研究で得られた実証結果は、企業活動における有形資本へのアクセスに関する複数のチャネルが有効に機能することで、幅広い企業・業種における有形資本の利用拡大が叶うことを示唆している。現下の政策に係る検討においても、企業の投資促進を狙ったメニューの提案がなされているが、企業の異質性を意識した効果的な政策支援の模索が期待される。