ノンテクニカルサマリー

海外直接投資規制と米中対立:米議会の動向を中心に

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル・インテリジェンス・プロジェクト(国際秩序の変容と日本の中長期的競争力に関する研究)」

米中対立が強まる中、深い相互依存関係にある両国経済の切り離しを進めるべきか否かは大きな政治的争点となっている。海外直接投資(FDI)についても、安全保障上の懸念が指摘されており、投資の規制を強化する動きがある。本論文では、FDI規制について、米議会の議員がどのような態度を取っているか、それらの背景にはどのような政治的・経済的要因があるのかを検討する。

投資規制の動機としては、潜在的な敵国への技術やデータの流出が安全保障上の脅威につながるという懸念がある。一方で、安全保障上の脅威の定義はあいまいであり、他の経済的・政治的動機に由来する投資制限の口実に用いられる可能性もある。先行研究では、FDIに関する経済的な動機としては、投資による雇用増や、海外のライバルによる買収を阻止したい個別企業の利害などが挙げられている。また政治的動機として、対中強硬策を唱えることで政治的リーダーとしての評価を高めたいという誘因もある。

本論文では、2018年に超党派の支持を得て成立した「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」について、下院議員が共同提案者になるかどうかの選択に影響を与える要因を定量的に分析したところ、各選挙区ごとの中国からのFDIの投資額および投資によって生み出された雇用という経済要因の影響は有意ではなかった。

次に、米議会における対中強硬派について検討した。米議会では、2019年以降中国関連法案の提出本数が大幅に増えている(図参照)。117回議会において、こうした法案の提案者となった回数が多い議員、またメディアにより「対中強硬派」として挙げられている議員、中国政府による制裁対象となった議員を主要な「対中強硬派」とし、上院議員8名、下院議員5名について、各議員の左右のイデオロギーを示す指数と、それぞれの選挙区がある州の輸出入における対中依存度を検討した。その結果、中国への依存度が特に高い州選出の議員は含まれていないことから経済要因がやや効いていることがわかったが、イデオロギーおよび経済要因において特に目立った共通点は見いだせなかった。さらに個別の議員について確認していくと、各議員の動機は多様であり、経済的要因よりも、外交への関心や政治的野心、人権問題への懸念や宗教的な要因などが主に影響していることがわかった。

図 米議会に提出された中国関連法案(第98議会から第117議会まで)

しかし、本論文が分析の対象としたFDI規制については、2018年FIRRMAやその後に議会に提出された法案について、中心となっているのは上記のような対中強硬派ではなく、中道的な議員の主導による、広範な合意に基づいた政策形成が特徴であることが明らかになった。

近年の国際環境の変化により安全保障の観点からの投資規制強化の必要性が高まる一方、自由な投資の制限は経済に負の影響をもたらし、長期的に国力を弱める可能性もある。本論文から得られる政策的示唆として、米議会で提案される対中強硬策は純粋に安全保障上の動機だけでなく、政治的・経済的動機から提案されている面もあるが、2018年以降のFDI規制に関して言えばそうした要因の作用は弱く、経済への影響にも配慮した政策形成がなされることが期待できる。しかしそれでも経済への影響は否定できず、今後米国で対外投資規制がさらに強化されれば、日本をはじめとする他国にも協調を求めることが予想されるため、日本経済への影響も避けられないだろう。