ノンテクニカルサマリー

ロボット輸入が中国企業のパフォーマンスにあたえる影響

執筆者 楊 起中(東洋大学)/乾 友彦(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

近年のロボットや人工知能、ソフトウェアシステムなどの先進技術の著しい進歩を受け、産業用ロボットの使用は現代の製造業における象徴となっている。世界における産業用ロボットの導入数は2020年までの過去10年間で顕著に増加し、新型コロナウィルスによる影響を受け直近はやや減少傾向にあるものの、2020年には2010年の約3.2倍に相当する384,000台に達した。

ロボット技術の開発と導入について、かつては米国、日本、ドイツなどの先進工業国が支配的だったが、近年は中国において導入の増加が目覚ましい。世界のロボット年間売上に占める中国のシェアは2000年の0.4%から2005年の3.7%、2010年の12.4%と増加の一途を辿った。2016年には米国・日本・ドイツなどの主要先進国を抜き、世界最大の稼働中ロボット数を有する国となった(図1)。

図1. 各国の産業用稼働中ロボット数 (単位:千台)
図1. 各国の産業用稼働中ロボット数 (単位:千台)
注:DP中の図3より抜粋

ロボットの急速な導入がもたらす経済的効果には関心が高い。そのためにはロボットの導入が企業にどのように影響するのかを明らかにする必要がある。例えば、ロボットの使用は企業の生産規模を拡大するのか、ロボットの導入により生産性は向上するのか、ロボットと労働は代替関係、もしくは補完関係にあるのかなどである。

本論文では、産業用ロボットの輸入と企業パフォーマンスに関する研究を実施した。分析では中国製造業の個表調査データと中国税関の輸出入データを用いた。これらのデータセットを接合したパネルデータを使用して、中国企業のロボット輸入と企業の産出量、生産性、労働者数の関係性について分析した。 また、これまの先行研究で研究では考察のない、ロボット輸入が企業の国際貿易に与えた影響についても検討した。

分析の結果、産業用ロボットの輸入は企業の産出量と労働者数については正で有意な影響がある一方で、生産性については有意な影響がみられなかった。貿易面に関して、ロボット輸入のある企業では輸出単価と輸出総額の増加が見られた(表1)。当該企業については輸入単価の増加と輸入総額の減少も見られた。また、企業のグローバル・バリューチェーンにおける輸出上流度指数と輸入上流度指数はロボット輸入の増加に伴いいずれも減少したが、前者への影響がより大きいことから、ロボット輸入は企業がグローバル・バリューチェーン上で担う業務の幅を広げることを示唆した(表2)。

表1. ロボット輸入と企業パフォーマンスの推計結果
表1. ロボット輸入と企業パフォーマンスの推計結果
表2. ロボット輸入と貿易パフォーマンスの推計結果
表2. ロボット輸入と貿易パフォーマンスの推計結果
注:表1,2に共通して、係数推定値の下のカッコ内の数字は標準誤差。係数推定値に付した*、**、***はそれぞれ10%、5%、1%水準で統計的に有意な結果を表す。Output, TFP, Size, Unit price, Value, Upstreamness, Value addedは被説明変数であり、それぞれ企業の産出量、全要素生産性、労働者数、貿易(輸出・輸入)単価、貿易(輸出・輸入)、グローバル・バリューチェーンにおける上流度、付加価値額を表す。Robot importi,t-1は説明変数であり、企業の産業用ロボットの累積輸入額を表す

これらの結果を考察すると、以下の政策的含意が得られる。まず、産業用ロボットの導入は企業に生産規模の増加と雇用の創出をもたらす可能性がある。また、グローバル・バリューチェーンを介して競争が激化する世界市場における企業の競争力にも寄与する。これらを考慮すると、政策立案者は企業の自国内外からのロボット導入を推進させる政策を取り入れることに意義があり、さらには自国企業によるロボット技術の研究開発を促進することも重要である。他方、ロボットの生産への導入により企業の投入財や生産財、さらには生産業務の幅にも影響を与えることが示されており、それに伴い労働者スキルへの要求も変化することが見込まれる。そのため、労働者の労働スキルの更新や円滑な労働市場における移動を実現できる環境の整備が必要と考える。