執筆者 | 岡崎 友里江(嘉悦大学)/齊藤 孝祐(上智大学)/土屋 貴裕(京都先端科学大学)/佐橋 亮(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | グローバル・インテリジェンス・プロジェクト(国際秩序の変容と日本の中長期的競争力に関する研究) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル・インテリジェンス・プロジェクト(国際秩序の変容と日本の中長期的競争力に関する研究)」
米中対立の激化に伴い重要技術を管理することの重要性が高まっている。安全保障と経済活動のバランスを取りながら効果的な技術管理の仕組みを構築するには、政府が主導的に規制を構築していくだけでなく、技術開発や移転の担い手となる企業の認識、実体を正確に把握することが求められる。
本調査は、サプライチェーン及びイノベーションエコシステムの管理をめぐる各国(特に日米中)の政策・制度が、①企業の認識、および②実際の経営判断にいかなるかたちで反映されるのかを明らかにするため、令和3年の特許出願件数上位5,000社のうち、自治体や大学等を除く3,794社を対象としてアンケート調査を行った。その結果305社の有効サンプルを得ることができた(有効回収率8.0%)。
調査の結果、多くの業種において技術ノウハウ管理を実施していない企業が一定数存在することが分かった。また、アンケートからは、小規模な事業体ではノウハウ管理に十分対応できていないことも示唆された。その背景には、米中対立の影響を認識していない、もしくは自社の保有している技術の安全保障上の重要性を十分に認識していない等の理由で、適切な技術ノウハウ管理がなされていないものと見られる。また、技術流出のパターンとしては退職者を通じた流出との回答が最も多くみられる一方、実際の技術ノウハウ管理においては退職者の動向追跡を行っているケースはほとんどなかった(図1)。
また、回帰分析の結果からは、中国と米国のどちらとも取引があり、米中双方から投資・資金を受けている場合、米中対立からマイナスの影響を受けているが、一方からのみと取引や投資・資金を受けている場合には相関が見られない(表1-1, 1-2)。
一方、アンケートからも示されたように、海外展開する企業、特許保有件数の多い企業は米中対立からマイナスの影響を受けやすいが、説明変数である技術ノウハウ管理の強化がその影響を緩和する傾向が示された(表2-1, 2-2)。
このように、本研究で得られた知見は、企業が海外市場において積極的に活動しつつも、技術ノウハウ管理を強化していくことによって米中対立の影響が緩和される可能性を示唆している。
その一方で、本研究では米中対立の影響を説明する変数を示すことはできたものの、影響経路や要因、因果関係といったメカニズムまでは解明できていない。推論としては、第1に、技術ノウハウ管理の強化をすることで、知的財産や技術・製品の優位性を担保しながら、供給販路の多角化や海外展開を有利に進めることができ、規制にも柔軟に対応し得る等の要因から、米中対立による負の影響を軽減できることが考え得る。第2に、とりわけ体力のある企業は、技術ノウハウ管理を強化して流出リスクを低減させることができるのと同時に、サプライチェーンの多角化を進めることができる能力を有しているのかもしれない。すなわち、技術ノウハウ管理の強化と米中対立による負の影響の低減は直接の因果関係に置かれているのではなく、企業体力という別の要因によって規定されている可能性もある。本推計結果を踏まえて、影響経路や要因、因果関係に関してさらなる調査・分析が必要となろう。